この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
道化師は啼かない
第5章 邪な嘘
少しだけ。
ほんの少しだけ、似ている気がした。
諦めて目を細める姿とか。
眠っていた時には気づかなかった冷静さ。
あの、声を張っていた彼女とは別人。
「……もしかして、殺し屋さん?」
おずおずと尋ねる彼女は状況をすべて飲み込んだ顔をしていた。
へえ。
そんなに早く順応する?
美津希は僅かに唇を歪めた。
僕にはそれが笑って見えた。
「ずいぶん早いんですね……お仕事」
潤んだ瞳は変わらないのに。
取り巻く空気がまるで違う。
「もっと、怖いおじさんとかだと思いました。こんな若い方がやってるんですね」
頭のなかで黒フードの男を睨む。
ー先に言ったらお前は無謀なやり方にしそうだったからなー
耳元で言い訳が聞こえた。
息を吐いて美津希の首に手を当てる。
絞めるためじゃない。
その血流を感じるように。
「依頼したの?」
自分の死を。
美津希は無言で見つめ返した。
返事をしたようなもの。
ああ。
たまにいるんだ。
これで九人目かな。
自分で自分の死を依頼する。
自殺は出来ない卑怯もの。
あんまり
好きじゃない
首から手を離して、立ち上がる。
それから扉まで歩くと、鍵を外して開け放した。
美津希はキョトンとそれを眺める。
「おいで」
ハルは無表情で云った。
白い手袋を填めながら。
乱れた服を直しもせずにやって来た美津希の背中に手をかけ、非常階段を登った。
まだ明るい。
厚い灰色の雲の向こうで太陽が昼を主張しているようだ。
雨が全身に落ちてくる。
頬に当たるのが心地よかった。
「……殺し屋さん?」
屋上に来てからトンと突き飛ばす。
バランスが取れずに倒れた彼女は、水溜まりに浸かりながらハルを見上げた。
問うように。
ほんの少しだけ、似ている気がした。
諦めて目を細める姿とか。
眠っていた時には気づかなかった冷静さ。
あの、声を張っていた彼女とは別人。
「……もしかして、殺し屋さん?」
おずおずと尋ねる彼女は状況をすべて飲み込んだ顔をしていた。
へえ。
そんなに早く順応する?
美津希は僅かに唇を歪めた。
僕にはそれが笑って見えた。
「ずいぶん早いんですね……お仕事」
潤んだ瞳は変わらないのに。
取り巻く空気がまるで違う。
「もっと、怖いおじさんとかだと思いました。こんな若い方がやってるんですね」
頭のなかで黒フードの男を睨む。
ー先に言ったらお前は無謀なやり方にしそうだったからなー
耳元で言い訳が聞こえた。
息を吐いて美津希の首に手を当てる。
絞めるためじゃない。
その血流を感じるように。
「依頼したの?」
自分の死を。
美津希は無言で見つめ返した。
返事をしたようなもの。
ああ。
たまにいるんだ。
これで九人目かな。
自分で自分の死を依頼する。
自殺は出来ない卑怯もの。
あんまり
好きじゃない
首から手を離して、立ち上がる。
それから扉まで歩くと、鍵を外して開け放した。
美津希はキョトンとそれを眺める。
「おいで」
ハルは無表情で云った。
白い手袋を填めながら。
乱れた服を直しもせずにやって来た美津希の背中に手をかけ、非常階段を登った。
まだ明るい。
厚い灰色の雲の向こうで太陽が昼を主張しているようだ。
雨が全身に落ちてくる。
頬に当たるのが心地よかった。
「……殺し屋さん?」
屋上に来てからトンと突き飛ばす。
バランスが取れずに倒れた彼女は、水溜まりに浸かりながらハルを見上げた。
問うように。