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道化師は啼かない
第5章 邪な嘘
 カツン……カツン。
 ハルは縁から地上を眺めた。
「はあ。やっぱり雨に混ざってしまうと勿体ないね」
 唇を親指でなぞる。
 そしてふっと笑んだ。
 まだ感触の残る手をポケットに入れて、非常階段から屋上を去る。
 籠ったラップ音が路上に漏れるカラオケ店を一瞥して歩く。
 つい一時間前までこの場所で声を張り上げていた少女がビルのすぐ裏で絶命していることに世界は気づかない。
 眼鏡を掛け直して、ハルは家に足を向けた。
「貴方が憑いていたなら……」
 そう呟いて。
 それを払うように足を速めた。

「おかえりなさーい」
 ヘレンが駆けてくる。
 だが、勿論声の主はこの猫じゃない。
 ハルは革靴を脱がずに室内に入ると、床に胡坐をかいている直輝を見つけた。
「……なにしてるの」
「ああ。反応薄いな、やっぱ。結構大変だったんだぜ? ここ探し出すの。似たような廃ビルばっかでよ。けど飼いならされてる猫がいるんじゃん。で、そいつを追ってたどり着いたわけ」
 ヘレンが抗議するように鳴く。
 その下顎を掻いてやり、ハルは部屋に入った。
 直輝の視線が追ってくる。
「あんたの上司ってヤバい人だな」
 返事をしないでいると勝手に続けた。
「オレの職場にも偏屈なやつとか気違いは多いけどさ、あんな威圧感あるのは初めてだったよ。よくあんなんと仕事出来るな」
 傍らを過ぎようとしたヘレンを抱き寄せ、抵抗をものともせずに膝に乗せる。
 ハルは用意しかけたエサを戻した。
 出窓にもたれかかり、招かれざる客と相対する。
 頭痛がする。
「それで?」
「益々久谷ハルに興味が湧いた」
 直輝はにっと笑うと、目をぐるりと回して見せた。
「本当は悪趣味な事件起こしてる頭悪い奴を半殺しにでもしようと思って来たんだけどさ、あんたといいあのフードの男といい随分な腕の奴らなわけだろ。他にもメンバーがいたっておかしくない。だから仕事の邪魔はしない。そう決めた」
「それで?」
 ハルは繰り返した。
 訊きたいのはそれじゃないと圧するように。
 ただでさえ今日の仕事の余韻を打ち壊されたことに虫の居所が悪かったのだ。
 自然と口調も尖る。
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