この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
道化師は啼かない
第6章 不協和音
幸せだった。
恐らく、誰もが想像に描く、いい家族。
重役に就いた家族想いの優しい父。
料理上手でいつも笑顔の母。
毎日一緒に遊ぶ双子の妹の唯。
ペットの猫のヒュー。
毎週末全員で外食に行くのが恒例で、円卓を囲む私たちの会話は途切れることを知らず、笑いに満ちていた。
近所でも有名な仲良し家族だった。
家は庭付き一戸建て。
親族が泊まりに来る度羨ましがられたものだ。
私は家族が好きだった。
はじめは好きだった。
けど、段々気味が悪くなった。
完璧すぎる平和はむしろ違和を生む。
その笑顔の裏に何か潜んでいるように感じてしかたがなかった。
そしてそれは今か今かと私たちの寝首をかこうとしているんじゃないかって。
更には平和な家族の一員として振る舞わなきゃならない束縛感。
少しでも道を外れようものなら豹変する家族の表情に気味悪さを感じていた。
不満があることさえ罪に思えた。
きっかけは中学三年の両親の結婚記念日の夜。
母が豪勢な夕食を準備した頃、酔った父がおぼつかない足取りで帰ってきた。
介抱しながらも記念日に醜態を晒す父を咎めた母に、大きな拳が振るわれた。
この家で初めて見た暴力だった。
私は急いで唯を抱き締めテーブルの陰に隠れようとしたが、何度も殴られる母に言い様のない恐怖を覚えた。
なんで、抵抗しないの。
まるで慣れてるかのように。
違うじゃない。
「父さん、やめてっ」
止めに入ろうとしたときだった。
唯がテーブルの上のワインボトルを手に取り父の背後に回った。
「いい加減消えろ、くそ親父っ」
朦朧としていた母が悲鳴を上げる。
ヒューが哭きながら走り回る。
鈍い音がする。
唯の眼には確かな殺意が滲んでいた。
なんで。
何でも語り合う双子だったじゃない。
いつの間にそんなに父を憎んでたの。
ニコニコと蝋燭に灯をともす唯はどこにもいなかった。
横たわる父にいつもの威厳はなかった。
救急車を呼ぶ母は能面のようだった。
動こうとすらしない自分の卑劣さ。
今までの偽りが崩壊する。
恐らく、誰もが想像に描く、いい家族。
重役に就いた家族想いの優しい父。
料理上手でいつも笑顔の母。
毎日一緒に遊ぶ双子の妹の唯。
ペットの猫のヒュー。
毎週末全員で外食に行くのが恒例で、円卓を囲む私たちの会話は途切れることを知らず、笑いに満ちていた。
近所でも有名な仲良し家族だった。
家は庭付き一戸建て。
親族が泊まりに来る度羨ましがられたものだ。
私は家族が好きだった。
はじめは好きだった。
けど、段々気味が悪くなった。
完璧すぎる平和はむしろ違和を生む。
その笑顔の裏に何か潜んでいるように感じてしかたがなかった。
そしてそれは今か今かと私たちの寝首をかこうとしているんじゃないかって。
更には平和な家族の一員として振る舞わなきゃならない束縛感。
少しでも道を外れようものなら豹変する家族の表情に気味悪さを感じていた。
不満があることさえ罪に思えた。
きっかけは中学三年の両親の結婚記念日の夜。
母が豪勢な夕食を準備した頃、酔った父がおぼつかない足取りで帰ってきた。
介抱しながらも記念日に醜態を晒す父を咎めた母に、大きな拳が振るわれた。
この家で初めて見た暴力だった。
私は急いで唯を抱き締めテーブルの陰に隠れようとしたが、何度も殴られる母に言い様のない恐怖を覚えた。
なんで、抵抗しないの。
まるで慣れてるかのように。
違うじゃない。
「父さん、やめてっ」
止めに入ろうとしたときだった。
唯がテーブルの上のワインボトルを手に取り父の背後に回った。
「いい加減消えろ、くそ親父っ」
朦朧としていた母が悲鳴を上げる。
ヒューが哭きながら走り回る。
鈍い音がする。
唯の眼には確かな殺意が滲んでいた。
なんで。
何でも語り合う双子だったじゃない。
いつの間にそんなに父を憎んでたの。
ニコニコと蝋燭に灯をともす唯はどこにもいなかった。
横たわる父にいつもの威厳はなかった。
救急車を呼ぶ母は能面のようだった。
動こうとすらしない自分の卑劣さ。
今までの偽りが崩壊する。