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道化師は啼かない
第6章 不協和音

 その夜唯が私の部屋にきた。
 勉強道具を持って。
 来週のテストのためにって。
「お姉ちゃんの数学の頭がほしいよ」
 ノートを広げながらクスクス。
「なに、笑ってんの……」
 さっきなにが起きたかわかってるの。
 あんた父親を殴ったんだよ。
 それで母さんも二人とも病院に行ってるんだよ。
 大変なことが起きてるんだよ。
 なに、無邪気に笑ってんの。
「お姉ちゃんはさ、見たことなかったんだよね。だから、私が悪者になってるんでしょ?」
「なにそれ」
「お母さんが何回お父さんに傷つけられたか、知らないもんね」
 カリカリ。
 問題を解きながら。
「ビックリさせちゃった?」
 唯。
 生まれた時から一緒に過ごした唯。
 妹。
 大好きな妹。
「お姉ちゃん?」
「もう寝る。出てって」
 汚い言葉なんて一つも遣わない妹。
 純粋で、可愛くて。
 守りたいって。
「わかった。おやすみ」
 扉が閉まるまで待てなかった。
 ポロポロと涙が伝う。
 どうして。
 いつから。
 私だけ。
 嘘でしょ。
 なにこれ。
 ゴウゴウと、脳を渦巻く。
 止みません。

 その翌日に、ハルに出会った。
 
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