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道化師は啼かない
第6章 不協和音
 来たことのない道というのは地元であっても地元でないような奇妙な感じがするもので、ハルに連れられて来たその薄暗いビルの隙間は私を受け入れてくれるのかわからなかった。
 錆びれた看板が壁から垂れ下がり、辛うじて喫茶店であることを示してはいるものの客に対しての関心が一切ない風貌だった。
 大体これほど大通りから離れた店に来る変わり者はそういないだろう。
 ステンドグラス調の扉を押し、涼しい鈴の音が鳴る下、足を踏み入れる。
「いらっしゃいませ~」
 その声の幼さに顔を向けると、幼稚園児ではないかというほど小さな少年がカウンターに座って足をぶらぶらとさせていた。
「あれ? お客さんだ」
「マスターは?」
「さあねえ。ボクが来たときは誰もいなかったよ」
 どうやら先程の挨拶も、店員らしき人物がいないことも彼らにとっては日常であるようだ。
 でも私は違う。
 なぜ、喫茶店に幼児と高校生が?
 秘密基地にしては出来過ぎだ。
「あの……貴方達はなんなの?」
 少年が一瞬きょとんとして噴き出した。
「あっはは。ハルが説明してよ」
「初めの一言がこれとはね……さっき自己紹介したはずですが。胡桃さん?」
「ハ、ハルさんですよね。あと……」
 少年を目で窺うと、トンと自分の背丈ほどありそうなカウンターから飛び降りてトテトテこちらにやってきた。
 やっぱりどう見ても幼稚園児。
 よくて小学一年。
「はじめまして。ボクは蕗」
「ふ……き?」
 仰々しい握手に応えながら漢字を探す。
「フキノトウって知ってる? 春野菜の。あの蕗」
「本名?」
「うわっ。しつれーい。聞いた? ハル」
「聞いてないけど」
 ハルは無関心に椅子の一つに腰かけて新聞を読んでいた。
 その光景の穏やかさにだんだん感覚が麻痺してくる。
「あっ。だからハルなの? ハルとフキ」
「くっ……ははははっ。面白いですね、ソレ」
 ハルが耐え切れないというように笑った。
「ハルとフキだって。ボク、ハルのパートナーだっけ?」
「申し出られても断る」
「ちぇっ」
 舌打ちをしてニマッと笑顔を見せた蕗に胸の奥が締め付けられた。

 昨夜のあの地獄みたいな日常が遠ざかる。

 カランカラン。
 床に伸びた新たな影に振り向くと、フードを被ったパーカー姿の男が入ってきた。
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