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道化師は啼かない
第6章 不協和音
「家族なんて消えちゃえばいいのに……」
 ボロボロ泣きながらすがる私を見つめる紫の瞳。
 少年はアイスを頬張りながらナイフを回していた。
「いつかそう頼みに来ると思っていましたよ」
 声をかけたのは私の方だったのに。
 フードの男が蕗とハルを呼ぶ。
 三人が出て行った後も私はずっと泣いていた。
 カウンターにうつ伏せになって。
 自分の声だけが響く。
 傍らに重ねたトランプ。
 椅子がキシキシ鳴るのは前からのことなのに鼓膜にこびりついて落ち着かない。
 足音。
 足音。
 どんどん遠ざかる。
 結局どちらの世界も選ばずに。
 唯の部屋に入らなくなって半年。
 私が開け放してやるべきだったのに。
 そしたら悩みも憎しみも殺意も共有できたはずなのに。
 そのサインを何度も受け取っていたはずなのに。
 急に涙が止まった。
 足が走れって訴える。
 置いてあった鍵を掴み取り外に飛び出す。
 土砂降りの雨だった。
 上手く閉まらない鍵にイラつきながらもなんとか足を踏み出す。
 間に合え。
 急げ。
 なにに。
 いったい何を止めようとしているんだろう。
 自分は。
 彼らの残酷性を無意識下で知っていながら依頼して。
 家族を殺せなんて。
 一年前までは夢でも思いつかなかったのに。
 走れ。
 走れ。
 家まで。

 パチャン。
 玄関の水たまりに足が沈む。
 今までと違う空気に包まれた家に、帰るという言葉さえおこがましく感じる。
 思い扉を開けて靴のまま上がる。
 すると廊下に突然唯が飛び出してきた。
 お腹を抱えて。
「ゆ、いっ」
「おねえちゃん何で帰ってきたの!? っは、く……逃げてっ。母さんが今」
 絶叫が響く。
 私は硬直して動けなくなった。
 唯の脇腹に大きな裂傷を見つけて。
 母の声を聞いて。
「早くっ」
「猫はどこ行った?」
 耳元で突然囁かれ二人とも同じ方向を振り向いた。
 玄関に立つマスターを。
 唯が怯えて後ずさる。
 そこには枕を刺しながら狂ったように喚く今朝の狂気はない。
「おねえちゃん!」
 叫ばないでよ。
 その声嫌いなんだから。
 頭が、痛い。
 泣かないでよ。
 その泣き顔苦手なの。
 自分が極悪人に思えるの。
 間違ったの?
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