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道化師は啼かない
第6章 不協和音
私を殺そうとしているあんたがきっかけだったんだよ。
父さんから受けてた性的暴力に苦しむあんたを救い出せなかったのは私のせいなの。
いたいいたいいたいいたい。
頭が痛い。
「お姉ちゃんこっち!」
ぐいっと手を引かれて二階に行く。
もつれそうな足を脊髄反射だけで動かして。
唯が選んだのは私の部屋だった。
入ってすぐに棚で扉を塞ぐ。
それから唯は崩れ落ちた。
顔が真っ青だ。
駆け寄るものの手が伸ばせない。
「はあっ……あ、っく……おねえちゃん」
初めて部屋に焦点を合わせた唯が目を見開いた。
「お……ねえ、ちゃ」
「悪趣味?」
壁中に敷き詰めて貼られた家族写真。
あの、仮面をつけてた頃のみんな。
私も唯も笑って。
意識が飛びそうな目をして唯は部屋を眺めまわした。
そして立ち上がると、窓に向かった。
「唯?」
廊下で足音がする。
マスター?
カーテンを開いて窓を全開にすると、唯はそこに足をかけた。
「なにやってんの!?」
「おねえちゃん私のこと憎んでるんでしょ! あの日私がお父さんを殴んなきゃいつまでもこうしていられたもんねっ」
「それは違うよ……私はあの家族と呼べない関係に耐えきれなかったもん」
「じゃあそれからは!? 家族と呼べる関係だった私たち?」
お互いの目からは止めどなく涙が溢れた。
二人ともこの家に満ちる死の臭いに包まれていた。
「私は……死ぬならおねえちゃんと一緒がよかった……」
言葉を発しようとした瞬間、唯の胸をトンと見慣れた手が突き飛ばした。
「おねえ……」
必死で宙を掻く手がすぐに窓枠の外に消えた。
二秒後くらいに嫌な衝撃音が聞こえた。
「終わりましたよ」
「ハ、ル……」
眼鏡を外した横顔は悲愴すぎた。
言葉が見つからない。
殺した。
私が家族をみんな殺した。
やってしまったんだ。
殺ってしまったんだ。
なのに頭痛が消えていた。
怖い。
自分が。
ハルが。
この家が。
今すぐ死んでしまいたい。
唯の願いを叶えて私も飛び降りてしまおうか。
そんな暗すぎる思いで身を起こすと同時に「お姉ちゃん」と呼ぶ声が私を引き留めた。
「蕗っ」
父さんから受けてた性的暴力に苦しむあんたを救い出せなかったのは私のせいなの。
いたいいたいいたいいたい。
頭が痛い。
「お姉ちゃんこっち!」
ぐいっと手を引かれて二階に行く。
もつれそうな足を脊髄反射だけで動かして。
唯が選んだのは私の部屋だった。
入ってすぐに棚で扉を塞ぐ。
それから唯は崩れ落ちた。
顔が真っ青だ。
駆け寄るものの手が伸ばせない。
「はあっ……あ、っく……おねえちゃん」
初めて部屋に焦点を合わせた唯が目を見開いた。
「お……ねえ、ちゃ」
「悪趣味?」
壁中に敷き詰めて貼られた家族写真。
あの、仮面をつけてた頃のみんな。
私も唯も笑って。
意識が飛びそうな目をして唯は部屋を眺めまわした。
そして立ち上がると、窓に向かった。
「唯?」
廊下で足音がする。
マスター?
カーテンを開いて窓を全開にすると、唯はそこに足をかけた。
「なにやってんの!?」
「おねえちゃん私のこと憎んでるんでしょ! あの日私がお父さんを殴んなきゃいつまでもこうしていられたもんねっ」
「それは違うよ……私はあの家族と呼べない関係に耐えきれなかったもん」
「じゃあそれからは!? 家族と呼べる関係だった私たち?」
お互いの目からは止めどなく涙が溢れた。
二人ともこの家に満ちる死の臭いに包まれていた。
「私は……死ぬならおねえちゃんと一緒がよかった……」
言葉を発しようとした瞬間、唯の胸をトンと見慣れた手が突き飛ばした。
「おねえ……」
必死で宙を掻く手がすぐに窓枠の外に消えた。
二秒後くらいに嫌な衝撃音が聞こえた。
「終わりましたよ」
「ハ、ル……」
眼鏡を外した横顔は悲愴すぎた。
言葉が見つからない。
殺した。
私が家族をみんな殺した。
やってしまったんだ。
殺ってしまったんだ。
なのに頭痛が消えていた。
怖い。
自分が。
ハルが。
この家が。
今すぐ死んでしまいたい。
唯の願いを叶えて私も飛び降りてしまおうか。
そんな暗すぎる思いで身を起こすと同時に「お姉ちゃん」と呼ぶ声が私を引き留めた。
「蕗っ」