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道化師は啼かない
第6章 不協和音

 相手は最低な戦神、シヴァの劣化コピー。
 唯一好きだったゲームに出てきた神のひとり。
 本で調べて戦いの神だと知ってから、ターゲットの名称にぴったしだと思った。
 ハルのアリスはよくわからないけど。
 聞こうとも思わない。
 同業者がどんな思惑でなんて考える余裕なんてない。
 人通りが途絶えた瞬間を突いて塀を飛び越える。
 確かこの時間帯は二階でお酒を飲みながらテレビ見てるんだっけ。
 窓を見上げ、その手前に突き出した玄関の屋根を確認する。
 依頼人がその身内だと玄関からの侵入が可能で容易なんだけど、ハルが派手に殺人するように姑息に安全策を取るのは嫌だった。
 裏手に回る。
 群集した家の死角に入る位置に窓がある。
 あれに手を届かせるには……
 そばの物置に梯子が見えた。
 鉄製で三脚のように広げて使うタイプのもの。
 あんま好きじゃないけど。
 蕗はそれを窓の下に持ってきた。
 最上段まで上ると、部屋の中が見える程度の高さだった。
 テレビの明かりだけが揺らめく薄暗い部屋。
 灰色のシャツを着た大きな背中が見える。
 傍らには一升瓶。
 まだ、いるんだ。
 こういう人種。
 冷静に思ってしまう。
 あれから八年。
 十四になったいまでも世界は同じ色をしてる。
 依頼人がカギを開けたのか、窓にカギはかかっていなかった。
 そろそろと自分が入れる程度まで開き、枠に手をかけると一気に飛び移った。
 タン、という衝撃に男が振り向く。
 けど遅いよ。
 蕗は直角に曲げた肘を首に巻くようにして、ナイフを構えた手を見えないように駆ける。
 しなるように腕を振出し、まずは体を支える腕から肩を。
「なんだ、お前……あくっ」
 現状を理解する前に動けないとこまで追い詰める。
 うなじを蹴り飛ばして体制を崩した背中を。
 もう一度柄で後頭部を。
 これで立ち上がれるいかれた頭の持ち主にはいまだ出会ったことがない。
「がっ、てめ……んぐっ」
 喋る間なんて与えない。
 世界はもうお前の声なんて必要としてない。
 淡々と。
 怒りに身を任せて。

 違う自分が体を動かしているみたいに。
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