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道化師は啼かない
第2章 少女の秘密
登校路を避けて、制服を見るたびに早足で目的地に急ぐ。
まずは、駅。
道化が頼んだ場所は随分と遠い。
滅多に電車を使わないから定期もなく、私は誰もが一秒も無駄にしない券売り場の列に並ぶのに生唾を呑んだ。
もともと彼女に常々言われるほどのろまだ。
人様に迷惑かけるのは嫌だった。
まずこの波が去ってから。
この人たちがいなくなってから。
あの男性恐そうだから行ってから。
そうこうしてるうちに時間は過ぎていく。
「さっさとしなさいよ、馬鹿女」
とうとう堪忍袋の緒が切れた道化が口を突いて言葉を発してしまった。
丁度目の前で切符を買っていた初老の女性が振り返る。
明らかに私を見ながら。
「なんですって……?」
「ちち違うんです。そのっ」
私は急いで謝り、頭を下げようとするが、ぐっと力がこもり体が云うことをきかない。
もちろん、彼女の所為だ。
「謝る必要はないでしょ。もたもたしてる方が悪い」
周り中から非難の視線が突き刺さる。
私は真っ赤になって涙すら浮かべながら、心の中で必死に謝罪する。
「本当に……っ、非常識ね」
女性は怒りながら去った。
悪いのは絶対的に私なのに。
うな垂れていると、彼女が足を動かして券売機に向かわせる。
早く買え、と。
震える指でなんとか無事券を買う。
全然無事じゃないのだけど。
電子音が自分を責めている気がして、改札口を通り抜けるまで一回も顔を上げなかった。
ホームの端まで来て、口を開く。
「ああいうことは止めてって」
「あんたもババアものろくてムカつくのよ」
ばっと口を塞ぐ。
周りから見たら完全に不審者だという事実に情けなくなりながらも、小声で反論する。
「今日は貴方のために来てるんでしょ」
「いつもあんたのテストで手伝ってやってるのは誰よ」
言い返せない。
完全な文系の私は、理系科目の時だけ道化に体を明け渡し、代わりにテストを受けてもらっているのだ。
丁度電車がやってきて、無言で乗り込む。
携帯で確認した乗車時間は三十二分。
私はゆったりできる隅の席に縮こまるようにして座った。
脚を広げようとする彼女を留め、壁にもたれて。
数分して心に声が届く。
「嫌な予感がする」
「え?」
しかし道化は答えない。
客の少ない車内を見渡し、私は胸のざわめきを忘れようとした。
まずは、駅。
道化が頼んだ場所は随分と遠い。
滅多に電車を使わないから定期もなく、私は誰もが一秒も無駄にしない券売り場の列に並ぶのに生唾を呑んだ。
もともと彼女に常々言われるほどのろまだ。
人様に迷惑かけるのは嫌だった。
まずこの波が去ってから。
この人たちがいなくなってから。
あの男性恐そうだから行ってから。
そうこうしてるうちに時間は過ぎていく。
「さっさとしなさいよ、馬鹿女」
とうとう堪忍袋の緒が切れた道化が口を突いて言葉を発してしまった。
丁度目の前で切符を買っていた初老の女性が振り返る。
明らかに私を見ながら。
「なんですって……?」
「ちち違うんです。そのっ」
私は急いで謝り、頭を下げようとするが、ぐっと力がこもり体が云うことをきかない。
もちろん、彼女の所為だ。
「謝る必要はないでしょ。もたもたしてる方が悪い」
周り中から非難の視線が突き刺さる。
私は真っ赤になって涙すら浮かべながら、心の中で必死に謝罪する。
「本当に……っ、非常識ね」
女性は怒りながら去った。
悪いのは絶対的に私なのに。
うな垂れていると、彼女が足を動かして券売機に向かわせる。
早く買え、と。
震える指でなんとか無事券を買う。
全然無事じゃないのだけど。
電子音が自分を責めている気がして、改札口を通り抜けるまで一回も顔を上げなかった。
ホームの端まで来て、口を開く。
「ああいうことは止めてって」
「あんたもババアものろくてムカつくのよ」
ばっと口を塞ぐ。
周りから見たら完全に不審者だという事実に情けなくなりながらも、小声で反論する。
「今日は貴方のために来てるんでしょ」
「いつもあんたのテストで手伝ってやってるのは誰よ」
言い返せない。
完全な文系の私は、理系科目の時だけ道化に体を明け渡し、代わりにテストを受けてもらっているのだ。
丁度電車がやってきて、無言で乗り込む。
携帯で確認した乗車時間は三十二分。
私はゆったりできる隅の席に縮こまるようにして座った。
脚を広げようとする彼女を留め、壁にもたれて。
数分して心に声が届く。
「嫌な予感がする」
「え?」
しかし道化は答えない。
客の少ない車内を見渡し、私は胸のざわめきを忘れようとした。