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道化師は啼かない
第7章 人形はどちら
「みんみんてさ、自分と会話することある?」
 ボールで三球ストレートを見送った後に突然来たカーブに不意打ち。
 そんな顔。
 未海はなにか言いかけてまたつぐんで、それから慎重に言った。
「うーん……自分とっていう感じかはわからないけど頭の中でなんかわーわー言ったりすることはあるよ。自分で自分に突っ込みいれたりね。おぃいお前って」
 てへへと笑いながら締めてから未海は真剣な表情になった。
「なんで今それ聞いたの?」
「あの時私そんな感じだったんだ。ぼーっとしてんなよ、私! そんなんじゃこの体貰っちゃうぞって小悪魔な声がしたの」
 どのくらい軽く言えたかな。
 唇は震えずに済んだ。
 未海の顔に焦点が当てられない。
 ねえ。
 違う?
 道化って実は誰の中にでもいる自分なんじゃない。
 そんな淡い妄想も込めて。
 馬鹿ね。
 今、そう言ったのはだあれ?

「馬鹿ね」

「え?」
 未海がわしわしと私の頭を撫でた。
「思い詰めてることがあるならいつでもこのミンミンゼミに相談しなさーい! 喧しく乗ってあげよう」
「それはちょっと迷惑かな」
「このっ。人が元気づけようとしてんのに!」
「ふふふ。ありがとね、みんみん」
 未海は笑った私の顔を見て、うんうんと頷いた。
「よーし」
 もう大丈夫だよ。
 そういわんばかりに。

 ごめんね。

 ぽろりと出た本音。
 ごめんね、みんみん。
 うそつきでごめんね。
 もっと信じなくてごめんね。
 頼らなくてごめんね。
 一人で抱えてごめんね。
 私馬鹿なんだ。
 ありがとね。
 馬鹿って言ってくれて。
 楽になったよ。
 めくちゃんのこと、冷静に考えられるようになったよ。
 道化に体を明け渡しても、私は自我を保てるよ。
 自信をありがと。
「大好きだよ、みんみん」
「ひにゃっ? うわ、変な声でちゃったよ! いきなりなんでそんなこというかなあっ。もう、早く行くよ」
 真っ赤になって靴を履きかえる未海。
 友達。
 大事な親友。
 双子みたいに一緒に。
 あ。
 だめ。
「ごめん、みんみん。保健室に寄ってくからのべっちに遅くなるって伝えて」
「え? あっ。りょうかーい。一限はさぼんなよっ」
 ねえ。
 みんみん。
 今の私に違和感感じた?
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