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道化師は啼かない
第7章 人形はどちら
「あんたって禁句って知ってる?」
知らない。
けど、わかるよ。
双子ってワードに反応するよね。
「……どこまでも馬鹿だよね、麗菜って」
道化の泣きそうな顔が、鏡もないのに見えた気がした。
「いいから、保健室行くよ」
あんた、強くなったね。
「私は私だもの。今日もね」
「どうだか」
歩く足は、二人の意志の一致を示していた。
ゆありんと軽く雑談してから教室に向かった。
随分心配されてたみたいだ。
ちゃんと寝てるかって何回も。
大丈夫ですよって何回も。
昨晩はほぼ徹夜だけどまた嘘ついちゃった。
白い扉を開いてホームルームが終わってざわつく教室に足を踏み入れた。
その途端腰が抜けそうなほどの悪寒が全身を襲った。
なに。
ぶわっと冷や汗が噴き出す。
揺れる視点が捕らえたのは紫色の……
「あっ。麗菜ー」
みんみんの声も鼓膜を通り抜ける空気に変わる。
私の席の斜め前。
おそらくいつものように頬杖をついて読書しているはずのめくちゃん。
けど、私にはその下半身しか認識することができなかった。
心の中で道化が顔をゆがめる。
めくちゃんはもう、誰か解らないほどの量の濃い煙に包まれていた。
ゆっくりと机の列を掻き分けてそこに近づく。
「今日三限の英語予習まだしてなーいっ」
「そんで、アキラはどうなったの」
「てめえ、さぼんじゃねーよ!」
「あはははっそれ最高!」
喧噪。
その修飾が正しい。
なんの内容も伴ってこない。
私の眼には紫の煙しか映ってないのだから。
鞄を下ろして、椅子を引き腰を下ろす。
その動作の一つ一つの中で常に視界にそれが入ってきた。
なんで、あの女子高生の時よりもこんなにも禍々しいの?
禍々しい、か。
初めて使った。
「芦見さん、おはよ」
振り向いた、のかな。
めくちゃんの声。
ざわりと煙が触手のように畝って私に向いた。
鳥肌が立つ。
「うん。おはよ……」
煙が笑った気がした。
なんて、現実味のない。
自覚せざるを得なかった。
今日はあらがえないんだ。
めくちゃんは今日、確かに久谷ハルに殺される。
「麗菜~。一限化学だよ。移動しよ」
「うん」
未海に答えながらも眼はそこから動かせなかった。
知らない。
けど、わかるよ。
双子ってワードに反応するよね。
「……どこまでも馬鹿だよね、麗菜って」
道化の泣きそうな顔が、鏡もないのに見えた気がした。
「いいから、保健室行くよ」
あんた、強くなったね。
「私は私だもの。今日もね」
「どうだか」
歩く足は、二人の意志の一致を示していた。
ゆありんと軽く雑談してから教室に向かった。
随分心配されてたみたいだ。
ちゃんと寝てるかって何回も。
大丈夫ですよって何回も。
昨晩はほぼ徹夜だけどまた嘘ついちゃった。
白い扉を開いてホームルームが終わってざわつく教室に足を踏み入れた。
その途端腰が抜けそうなほどの悪寒が全身を襲った。
なに。
ぶわっと冷や汗が噴き出す。
揺れる視点が捕らえたのは紫色の……
「あっ。麗菜ー」
みんみんの声も鼓膜を通り抜ける空気に変わる。
私の席の斜め前。
おそらくいつものように頬杖をついて読書しているはずのめくちゃん。
けど、私にはその下半身しか認識することができなかった。
心の中で道化が顔をゆがめる。
めくちゃんはもう、誰か解らないほどの量の濃い煙に包まれていた。
ゆっくりと机の列を掻き分けてそこに近づく。
「今日三限の英語予習まだしてなーいっ」
「そんで、アキラはどうなったの」
「てめえ、さぼんじゃねーよ!」
「あはははっそれ最高!」
喧噪。
その修飾が正しい。
なんの内容も伴ってこない。
私の眼には紫の煙しか映ってないのだから。
鞄を下ろして、椅子を引き腰を下ろす。
その動作の一つ一つの中で常に視界にそれが入ってきた。
なんで、あの女子高生の時よりもこんなにも禍々しいの?
禍々しい、か。
初めて使った。
「芦見さん、おはよ」
振り向いた、のかな。
めくちゃんの声。
ざわりと煙が触手のように畝って私に向いた。
鳥肌が立つ。
「うん。おはよ……」
煙が笑った気がした。
なんて、現実味のない。
自覚せざるを得なかった。
今日はあらがえないんだ。
めくちゃんは今日、確かに久谷ハルに殺される。
「麗菜~。一限化学だよ。移動しよ」
「うん」
未海に答えながらも眼はそこから動かせなかった。