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道化師は啼かない
第7章 人形はどちら
放課後が来るのがこんなにも鬱屈な日がかつてあっただろうか。
そしてそういう日ほど望んでもないのに時間が早く進むんだ。
神様っていじわる。
本当にそう思う。
「じゃあ、気を付けて帰ってくださいね。日直、号令」
「起立、礼」
「さようなら」
荷物を高速で詰め込んで、私は未海に手を振ると階段を駆け下りて玄関に向かった。
すべてはめくちゃんを待ち伏せするため。
図書室に寄ることもよくあるめくちゃん。
どうか、今日もそっちに行って。
どこかでそう願っていたから、ショルダーバックを揺らしながら彼女が現れた時落胆したのかもしれない。
けど、道化はそんな私を構うほど甘くない。
意識の外で足が動き出す。
前と同じにしてたまるもんか。
狭まっていく視界にぐっと抵抗する。
盲目に何も出来ないまま、めくちゃんを見殺しになんて絶対しない。
道化はそれに気づいたようで、無理やり私を追い出そうとはしなかった。
共同作業のように二人で体を動かしてめくちゃんを追いかける。
ばれない様に。
「変わったね、あんた」
「貴方も六年間でだいぶ変わったよ」
皮肉をたんまり込めて言ったつもり。
「反対にあんたは全く発育してないよね」
けど道化に口で勝てるわけがない。
指先で太腿を摘ままれ、少し赤くなりながら私は歩いた。
めくちゃんは大通りから逸れて住宅街へと入っていった。
しばらくしてから今更のことに気付いた。
「こんな無防備のままハルに会ってどうするの」
「あんたって幸せな馬鹿でしょ」
「なによ、だから尋ねてるんじゃない」
はあ、と道化がため息を吐く。
それがスイッチとなってか突然恐怖心がこみ上げてきた。
「ちょちょちょ、待って……もしかして私死んでもおかしくなくない?」
なんか日本語おかしいけど。
「ほんと、今更だよね」
「えっ、待って」
「待たない」
足は止まってくれなかった。
めくちゃんの影を踏みながら、私の意志を無視して進んでいく。