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道化師は啼かない
第7章 人形はどちら
 女池水鶏。
 苗字と名前の一文字目をとって”めく”があだ名。
 ハルは資料を見ながら珍しい名前だなと思った。
 女池はわかるが、くいな。
 クイと鳴くからくいな、だったか。
 単純な由来の癖に響きだけは特殊なのだから人間のつける名前というのは面白い。
 この鳥の名前を付けられたアリスはどんな心地で生きてきたのだろう。
 ふと自分のハルという名前を浮かべた。
 春の晴れた日に生まれた。
 二つのハルを重ねてカタカナに。
 なら、蕗は?
 胡桃は?
 ふっと微笑む。
 何を考えているんだか。
 仕事前に。
 このアリスは三日前から動向を探っていた。
 直樹に見つかったのも彼女の家を下見してきた帰りだった。
「おっ。早起きだね~仕事?」
 そうだ、おかげで思い出した。
 直樹が自分の居住空間に堂々と居座っていることを。
「そうですよ」
 言った後にハルは迷った。
 今回は水鶏の後ろに姉が見える。
 これは、仕事か。
 それとも。
「どこの可愛い少女ちゃんが犠牲になるんだか」
「ちょっと珍しい水鳥です」
「え?」
 ぽかんとした直樹を置いてヘレンとともにビルを出る。
 すぐに非常階段をカンカンと走り下りてくる足音が追ってきた。

 まったく、どうかしてる。
 依頼人もだけど、直樹も。
 本当に死ねばいいのに。
 足元のヘレンに同意を得るよう目を向けると、幼い黒猫はふりふりと尻尾を揺らした。
 にゃあ、と一声鳴いて。
 それがなにを意味するのか僕はわからない。
 ハルはコツコツと革靴を鳴らしながら目的地にまっすぐ向かった。
 入り組んだ住宅街の先、シャッターの閉まった空き店舗。
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