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道化師は啼かない
第7章 人形はどちら
 制服を着た大人しそうな黒髪の少女が錆びついたシャッターを押し上げ中に入る様は、その夕陽の紅の効果によるだけでない異様さがある。
 水鶏は身を屈めてその暗い店内に転がり入った。
 立ち上がって汚れたスカートを手で払う。
 構造を知り尽くしている彼女は灯りも持たずに足を進めて奥に向かう。
 壁に這わせた手はただその感触を楽しむように力ない。
「どうして今日はここに?」
 水鶏はぷっくらとした唇を少しだけ開けて尋ねる。
 闇に向かって。
 その声は廃墟となった建物の中で飲み込まれていくように木霊する。
 余韻が渦巻く空気を貫くように、新たな声が発せられる。
「どうしても会いたい人がいてね。この時間にここでなら会える気がして」
 そう答えたのも、水鶏自身だった。
「それって前に話した人? 会いたいって言っていた」
「ええ。やっと会えるの」
 少女は淡々と独り言を繰り返していた。
 そして、その様子を二方向から二人の人物が眺めていた。
 正確には、三人。
 久谷ハルと、芦見麗奈。
 そして、自らを道化と称する久谷マキが。
 息を殺して。
 少女を観察するように。
 暗闇の中で瞳孔を開いて。

「ど……して?」
 私は世界が急速に狭まって行く感覚に息すら難しくなっていた。
 たった今聞いた、目にしたものが信じられない。
 だって。

 だって、めくちゃんがまるで

 道化と話すように独り言をしていたから

 急いで心の中で呼びかける。
 道化、いる?
 そこにいる?
 いるよ。
 すぐに帰ってきた声に安堵する自分がいた。
 どこかで道化がいなくなるのを恐れていたんだ。
 めくちゃんに乗り移ったのって。
 そして湧き上がる次の悪寒。
 じゃあ、誰なの。
 なんで、めくちゃんの中にも誰かがいるの。
 今日という日に会いたい人に会うためにめくちゃんをここに連れてきた。
 ならその会いたい人って?
 紫の煙は闇に溶けて、この建物全体が暗紫の海に沈んでいるようだ。
 もういつからか、この非現実的景色に網膜が慣れてきた。
 私はただ、めくちゃんを助けたくて付いてきただけなのに。
 一体世界は私に何を見せようとしているの。
 一体、何を……
「ねえ、いるんでしょう?」
 大きな声でめくちゃんが言った。
 くるくると周りを見回しながら。
「そこにいるんでしょう?」
 それは誰に向けてるの。
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