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道化師は啼かない
第7章 人形はどちら
 ハルもマキも唇を噛み締めて一言余さず脳に刻みつけていた。
 互いの手を握って。
 強く、強く。
 どこにも反論できない真実を聞きながら。
「はははは、あー……これであんたにもちょっとは現実がわかってもらえたかしら、ハル? あんたは自慢の息子だったのにね。いまや国家犯罪者の親不孝者よ」
「そうしたのは母さんでしょうっ!?」
「それでも普通人は簡単に人を殺さない。あんたにはその素質があったのよ、ハル」
 マキがぐっと堪える。
 爪を立てて弟の手を握り締めた。
「こういうときに何にも言えない弱い子よね」
 その言葉が引き金になったんだろうか。
 ハルは姉の手を離して母に近づいた。
 イスズが大げさに両手を広げて嗤う。
「ほらっ! どこでも刺したらどう? ああ、でもあんたはまず犯すんだっけ? 驚いたわ初めは。まさかマキにそんな感情持ってたなんてね。ああ、お母さん切ない。愛するわが子たちがそんなふしだらな関係だったなんて」
 ガツンガツンと脳を強打するように響く醜い声。
 一秒でも長く聞きたくない。
 マキは怒りに荒くなる息のまま低い声で返した。
「その息子が十歳の時に夫が浮気した腹いせにって性的虐待した母親がよく言うよ……あたし全部見ていたんだからね。父さんにも教えた。だから父さんは無理心中に思い切ったんでしょ」
「それは違うわ」
 突然冷静になったイスズが手をぱたんと下ろした。
 過去を見据えるように目を細めてぽつりと言う。
「父さんはそんな私ですらもう興味はなかった。だから私が破産させるほどの借金を見せつけたのに……結局あの人は家族に全く関心がなくなってた。最低な人。あの日だって一人生き延びたのよ」
「え?」
 そこで初めてハルが声をあげた。
 イスズが腕を擦りながらはき捨てる。
「あんたらなんかよりずっと復讐してやりたかったのに……窒息してる間に全部の記憶を失くして整形してどっか逃げたのよ、あの男。考えれば考えるほど私の人生って最低ね。誰にも看取られずに」
「泣いてください」
 ビクンとイスズが身を痙攣させた。
 おどおどとハルに顔を向ける。
 信じられないというように。
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