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道化師は啼かない
第7章 人形はどちら
「は?」
「僕は母さんが泣くところを一度も見たことがない。心中のことだってマスターから一言聞いただけです。そんな最期だって知っていたら……」
「知ってたら? お墓に水でもかけに来たっていうの!? あんたが? よくいうっ」
 数秒ほど互いの息だけが場を支配した。
「もしも、今ここで僕が貴方を殺したら……また母さんはほかの子に憑いて現れるの?」
 ねえ、ママ、どうしてお空は青いの。
 そんな声色だった。
 ハルは、単純に知りたいことを尋ねただけ。
 そこに何の裏もない。
 それこそまさに尋常じゃないが。
 イスズも呆気にとられたように固まったが、また強気の目に戻った。
「勿論よ」
「僕が死ぬまで?」
「そうねっ」
「わかりました」
 にっこり笑って腕を掲げたハルにマキが飛びついた。
「やめてっ」
「姉さん……?」
 マキは必死にその手からナイフを取り上げた。
 そしてそれをイスズに向ける。
「ハル! そのまま黙って聞きなさい」
「何を」
「黙って聞けっつってんのよ!」
 ビリビリと空気が振動する。
 怒声ともとれる迫力にハルもイスズも止まった。
「あんたはっ! ハルは……あたしを殺してなんかないよ」

 八年前。
 少女は何人もの男に輪姦された。
 キスさえ知らない歳で。
「さっさと咥えろ」
 見るのも寒気立つ性器を口に押し込まれて。
 助けを呼ぶ手段なんて何一つなく。
 知らない場所で、知らない男たちに。
「はっ、んぶ……んんっっ、ん」
「こんなガキ一人売っても金になんねーんだから。こうして使ってもらえるだけ有り難く思えよ。ほら、イけ」
「あんな親持ってかわいそーになあ?」
 何もかもが濡れてぐちゃぐちゃ音を立てていた。
 見たことない道具で幼い胸の突起に穴を開けられて、痛みに何度も意識を飛ばして。
「いッッぎい!」
「似合ってるぜ、マキちゃん。引っ張るたびによく締まるし」
 痛い痛い痛い痛い。
 それしか考えられなかった。
「お、ねが……やめてっ、や、っんく」
「売らないんなら壊れても問題ないしな」
 覚えているのは、床に付いていた腕の痺れくらい。
「弟の方が売れるんじゃねーの」
「そういや隣の部屋に閉じ込めてるんじゃなかったか。姉を追って忍び込んできたらしいぜ」
「はははっ健気だね~」
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