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道化師は啼かない
第7章 人形はどちら
「芦見麗奈?」
「はい。今は、そうです」
 ハルは泣きそうに笑った。
 そっか、と口だけ動かして。
「久谷マキさんとは、六年間この躰で一緒に過ごして……きました。ハルさん、伝えたいことがあるなら今言ってください。たぶん……感覚でしかないんですけど、たぶんマキさんはもうすぐ消えます……消えちゃいますから」
「そしてもう誰の中にも現れなくなるね」
「……はい」
 イスズが意味不明な言葉を喚きながら走って階段を上って行った。
 もう、彼女に理性というのは残っていない気がした。
 二人でその背中を見送り、虚しさだけが渦巻く。
 私は、希望を聞きたかった。
 だって、貴方達姉弟にこの最期は惨すぎるから。
 せめてその言葉に込められた思いだけでも二人が繋がってほしかったから。
「私、あの広場にいたんです」
「知ってるよ」
「え?」
 ハルは力なくほほ笑んだ。
「確かに僕は母さんの方に騙されていたけどね、あそこに強く姉の気配を感じたんだ。本当は予定と違うんだけどあの人ゴミが捌けてから少しだけ気配を追ってみたんだ。そしたら女池水鶏でなくて、芦見麗奈が歩いていた」
「じゃあ、どうして」
「確信なんて何一つなかった。僕は怖かったしね。さっき母さんが言ったことはすべて事実だ。姉の幻影を母の亡霊に重ねて何十っていう罪のない命を奪ってきたわけだしね」
「それは貴方のせいじゃないじゃないですかっ」
「それは、マキの言葉?」
 びくりとした。
 ハルの目を真っすぐ見て。
 紫の煙よりもずっと濃い、呑まれる色。
「僕は姉に性的愛情を抱いていた」
 知ってます。
 私は、ずっとそれを感じてきました。
 マキの記憶の中に。
「軽蔑されても構わないけど、僕はなによりも彼女を愛していた。あんな少年の頃からね。あのとき、男達に汚されて横たわる姉を見た瞬間生まれて初めてオーガニズムを迎えたくらい狂ってた。首を絞めた時も、少しは正気が残っていたのに止められなかった」
 けれど貴方は殺してないじゃないですか。
 ちゃんと止められたんですよ。
「首の骨が折れる音は今でもはっきり思い出せる。激しい自己嫌悪と強姦をする男性の背徳感に近い快感と、もうひとつ。僕はどこかで安心した」
 どうして?
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