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地味子が官能小説を書いたら
第2章 こんな気持ち
「え、実家ってお医者様なんだ」

「あれ、じゃあ、早川君って医学部に進まなくてよかったの?」

と、言ってしまって(しまった!)と後悔した。他人の家庭の事情に無神経に踏み込むのは良くない。

(ばか、ばか、わたしの馬鹿!)と心の中で自分を罵倒した。


「うん、僕は医者になるつもりはなかったから、実家は妹が継ぐことになっている」

「妹は優秀で、国立大学の医学部を目指しているんだ。あ、今、高校2年生」

「あ、あの、ごめんなさい。なんだか、余計な事を聞いちゃって、わたし馬鹿だから、無神経で……」

消えてしまいたいとはこの事だろう。いつの間にか文剛に嫌われたくないと思っている私がいた。


「あはは、そんな気にされると、恐縮してしまう。気にしないで」文剛は優しく笑いながら否定の意味を込めたのか、手を振った。


「オレンジジュースしかなくて、コーヒーが良ければ煎れるけど」

何事もなかったかのように、文剛はジュースを注いだグラスをテーブルに並べた。

「あ、どうぞ、お構いなく」

お決まりの文句を述べながら、私はクッキーを渡そうか、迷っていた。

こんな生活をしている文剛にとって、手作りの粗末なクッキーなんて貰っても迷惑なだけなんじゃないか……


リュックのジッパーを両手で開きかけたまま、固まってしまう。


「あの……荷物があるのなら、その辺に出して置いて大丈夫だよ。例の参考にしていた本?」

「うん……」

「?」

「どうかしたの?」心配そうに文剛が私の顔を覗き込む。

(えーーい、当たって砕けろだ!)私は、覚悟を決めリュックを開けて中からクッキーの入った袋を取り出した。

「あの、クッキーを焼いてきたの。お口に合うか分からないけど」

と言って、クッキーを手渡した。


文剛は、クッキーを受け取りながら、ぽか~んとした表情で固まっていた。何が起きたのか分からないという表情だ。

(あ~~自爆した~~~、やっぱり戸惑っている、迷惑だったかな?)


「あ、ありがとう。これって、もしかして、綾瀬さんの手作り?」

「う、うん。下手くそだけど……」照れくさくて、謙遜する。

「僕、女の子に手作りのお菓子貰ったのなんて、初めてだよ」

「凄い!嬉しい!ありがとう」

少し後悔しかけていたところ、文剛が喜んでくれたことで、私も幸せな気分になった。



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