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地味子が官能小説を書いたら
第5章 傷心
私は、文剛の胸のなかで体温を感じていた。

ほんの数秒の出来事だったと思う。私は、少し身体を離すと文剛の顔を見て、目を閉じた。


文剛の顔が近づく気配がしたので、息を止める。


唇に、柔らかい感触があたった。


(ああ……わたし、初めてキスをした)



唇の感触がなくなり、文剛の顔が離れていったので目を開けると、文剛がわたしを見つめていた。

私は、もう一度、文剛の胸のなかに顔をうずめた。


(ごめんなさい、ごめんなさい、文剛君の好きな人、ごめんなさい)

でも、私はもう遠慮するつもりはなかった。


「あ、あの、花音ちゃん」頭の上で、文剛の声が震える。

「その、僕の好きな人の事なんだけど……」

思わず、ビクっとする。


分かっている、でも、このタイミングで言ってほしくない。私は、文剛の声を遮った。

「分かってるから、いいの、分かってるから……言わないでも……」

「うん、ありがとう……」

文剛はやさしく私を抱きしめてくれた。


男の人とこうやって抱き合うのは初めてだが、今まで想像していたものとは違った。

もっと荒々しいものかと思ったが、文剛は柔らかく包み込むように抱いてくれている。

それでも、ぎゅう、としてくれている感じはする。

とても心地よい。



「花音ちゃん、もう一回いい?」

返事の代わりに、コクンと頷き、顔を上げる。

「ちょっと待って、眼鏡が邪魔になるから」そう言って、文剛は眼鏡を外すとテーブルの上に置いた。

(あ、文剛君の眼鏡を取った顔、素敵だ……)

まじまじと見つめてしまう。

「わたしの眼鏡もとって」

「うん」と言って、文剛は私の眼鏡も取って、テーブルに置く。

少し文剛の顔がぼやける。

文剛の顔が近づいてきたので、私は目を閉じ、息を止めた。


再び、文剛の唇のぬくもりを感じる、今度は少し長めに……

私は自然と唇を開き、舌を出す。

すると、舌先に絡んでくるものが……

(ああ、これが本当のキスなんだ、甘美という表現しか思い浮かばない)

もっと、もっと近づきたい、一つになりたい、そんな欲求が沸き上がって、抑えられなくなる。


きっと、文剛も同じなのだろう、私の肩に回した手に少し力が加わる。


私も、文剛の背中に回した手につい力がこもる。


キスをしたまま、二人の身体がソファーに倒れた。




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