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地味子が官能小説を書いたら
第8章 いつわりの日々
「これから設定を変えたり、書き直したりする時間はないから、このまま進めます」

「賞をとるのは無理かもしれないけど、物語の中の登場人物は、その世界で生きてるんです」

「だから、ちゃんと役割を全うさせないと……それが、作家の使命だから」


そうだ、紗栄子は、私の物語の中で生きている。だから、紗栄子の恋を成就できるのは私だけなのだ。

私の恋は無残な結果だったけど、紗栄子にはハッピーエンドを用意してあげたい。



「お嬢……やはり君は、俺の思った通りの人だ」

「真っすぐで、純粋で、思いやりがあり、そして何よりも物語を愛している」

「我々も協力する、最後まで書き上げて、紗栄子のハッピーエンドを見せてくれ」

「はい、向島さん、ありがとう」



私たちは、小説の展開について話し合った。

そのうえで、あまり多くを詰め込むより、次の2点を盛り込むことでストーリーを純愛から官能的な展開に変化させることにした。

・紗栄子と杏果のレズシーンを投入する(偶然にも伏線となる描写があったため)
・紗栄子と杏果、海のちょっと変わった三角関係(杏果と海で紗栄子をシェアする)を投入する



話に熱中してしまい、部室を出たのは20時過ぎだった。



翌日、私はいつもより早起きしてクッキーを焼いていた。

お世話になっている電研のメンバーに感謝の気持ちを、と思ったのだ。

一番大きなタッパにキッチンペーパーを敷き、そこに出来上がったクッキーを入れて、次に何時ものお弁当作りを始める。


今日は1~2限目に講義が入っており、その後は電研の部室で作業をする予定だ。

クッキーは、その時に渡そうと思った。


2限目が終わり、多目的ホールでお弁当を食べていると、美鈴と遥がやってきた。

「カノン、どうだった?昨日は」

「あ、ミリン、みんな優しくしてくれたよ、それに、小説のヒントもいっぱい貰ったよ」


その時、多目的ホールの入り口から、茶髪の男子学生が駆け寄ってきた。
「あ、いたいた、花音せんぱ~い」

流留だ。子犬が尻尾をふって駆け寄るみたいだ。

「あれ、流留、どうしたの?」

「花音先輩を迎えにきたんですよ、あ、遥先輩、久しぶりっす」


「カノン、ずいぶん懐かれたね~」と美鈴が笑う。

「あ、蜂矢先輩、いたっすか」

「ちょ、ナガル、わたしだけ扱いが雑じゃない?」




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