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夏の終わりに
第14章 困惑
月明かりの届かない暗闇の中では、浩人の表情がよく見えない。

千里は浩人の頬に手をあてた。いつも、そうやって浩人が慈しんでくれるように、そっと包み込む。
触れた手のひらが、冷たく濡れている。―――やはり泣いているのだ。

「ヒロ兄ちゃん……」

―――好き

溢れる想いを伝えたいけれど、浩人には迷惑なだけかもしれない。
なんて言えば正しいのか分からなくて、千里は言葉を詰まらせる。

好きと言ってしまった後の、浩人の瞳に浮かんだ戸惑いが脳裏に焼きついていた。


「……帰ろうか」

浩人はそう言うと踵を返した。

「……うん」

遠ざかる背中に返事して、千里は嗚咽を漏らさないように唇を噛み締めた。

抱かれていた時は、全身に浩人の愛情を感じたけれど、今はそれも甘い快楽が錯覚を起こさせただけのような気がし始めていた。

さっき浩人にキスをされた髪先を、千里は強く握りしめた。
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