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夏の終わりに
第17章 咆哮
千里はゆるゆると顔を上げ、恐怖の色に塗られた瞳で浩人を見つめる。

「…ぅ……」

そのまま静かな時間が流れて、千里は小さく呻き、戸惑い硬直した浩人の腕の中に飛び込んだ。浩人はしばらくじっとしていたけれど、そっと背中に手を回して、強く抱きこまれる。

「こ、…わ…かっ……」

浩人の匂いと感触。それを感じ取った途端、千里は悪夢から目覚めた子供のように泣きだした。

「……ごめん」

あやすように優しく背中を撫でながら、浩人が声を震わせる。

どうして謝られているのか分からないまま、千里は首を左右に動かし、さらに強く浩人に抱きついた。応えるように、浩人の腕に力がこもる。

包み込むようにきつく抱きしめられて、千里は肺の空気がなくなったような息苦しさを感じていた。けれど、その苦しさが千里を恐怖から解放し、守られている安堵から気持ちが弛緩していく。
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