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夏の終わりに
第4章 沈黙
奪われたカバンに視線を向けながらも、千里は大きく左右に首を振った。

「ううん、来てくれて…ありがとう」

「……いや」

浩人は口ごもり、訪れた沈黙から逃げるように車の側に戻る。助手席の背もたれを倒してカバンを後部座席に置いてから、ドアを大きく開けて千里へと振り返った。
無言で促されて、千里はスゥッと息を吸い込んだ。

浩人は千里の方に顔こそ向けているけれど伏せ目がちで、千里を見ていない。


笑ったこと、後悔してるのかな……。


千里は締めつけられるように痛む胸に気づかないフリをして、ゆっくりと車へ近づいていった。

顔を上げて浩人を見る勇気はなく、俯いたまま車に乗り込み、家に着くまでずっと窓の外を眺めて過ごした。
時々こっそりと浩人の横顔を盗み見したけれど、真剣に前を見つめる姿からは何を思っているのか読み取れなかった。
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