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夏の終わりに
第2章 帰郷
人の気配を忘れそうになる頃を見計らって車が一台通り過ぎていく。
雑草の蔓延ったロータリーに舞い込んできた蝶が、はしゃぐように飛び回っていた。

千穂はまだ現れない。
連絡も来ない。

千里は再び電話を鳴らした。

今度は三回目のコールの途中で明るい声が聞こえてきたけれど、ほっと安堵する暇なんてない。

「今、なんて……」
「だからぁ旅行中なの、美也ちゃんと。今日から四泊五日で」

娘が言葉を失ったことに気づいているとは思えない、底抜けに明るい声だった。

「今日帰るって……。昨日も電話したのに、旅行なんて言ってなかったじゃない」
「美也ちゃんが抽選で当てたのよ。すごいでしょっ」

「……すごいね」

言ってすぐに、千里はゆっくりと目を閉じた。

美也子おばちゃんもいないんだ……。

千穂との噛み合わない会話に疲れる余裕もなかった。
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