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夏の終わりに
第9章 白紙 ②
浩人は痛みに堪えるように眉をしかめると小さく唸り、もう一度千里を抱き寄せた。壊れやすいものを扱うようにそっと慎重に包み込んでくる。

「何もなかったことには出来ないよ……」

耳元で囁く声は苦しみに掠れていた。

「……何も変えられないんだ」

背中に回されている浩人の手が微かに震えている。千里は浩人が逃げてしまわないように、けれど控えめに腰あたりのシャツを掴んだ。


怒ってるわけじゃ…ない?

答えは、……きっと見つからない。

「……それでも、最初からやり直したい?また、……同じことになるのに?」

頷く代わりに、千里はその手を背中に回した。
窓の外で山手の木々がザアザアと音をたて、廊下に舞い込んできた風は、二人を包み込むくぐもった空気を連れて去っていく。

「……ちぃ、」

声にならない悲痛な叫びが聞こえてくるようだった。
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