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貴女に溺れて彷徨う
第5章 見返りという甘い汁
Tenue de bonheurのベテランスタッフが本社勤務になってから、二ヶ月余りが経った。とは言え彼女、せりなとは少なくとも月一以上は会っているため、思いのほか大きな変化は感じなかった。
毎月恒例の、顔馴染みの五人の同窓会で、既にあたしはせりなが恋愛を始めたことを聞いていた。
相手は広報部の敏腕社員で、そこそこ女に人気のある、四十代の男だという。人気があるくせに何故、今まで特定の相手がいなかったのか。せりな曰く、広報部の激務では、満足に交際出来るだけのスケジュールが組めなかったとのことだった。
その男がせりなに結婚を申し込んだのが、年明けすぐのことだ。
その日、ひなたとあたしは変わりなく、昼下がりのゆるやかな時間帯を過ごしていた。そこにひょっこり顔を出したせりなの左手薬指には、見慣れない銀のリングが輝いていた。それにもまさる満面の笑みで、彼女の惚気が始まった。
「伊野さん、本当にすごいですぅ。おめでとうございますっ。お式はいつですかぁ?」
「六月頃を予定してる」
「ジューンブライドじゃないですかっ」
ひなたのはしゃぎようは、漫画やドラマに憧れる年頃の少女達を凌駕している。ただでさえきららかな目をいっそう輝きに潤わせ、いつか自分も今度こそ、などと言っている。
良い子だ。ひなたのように素直にせりなを祝福出来たら、どんなに楽になれることか。
特別な人と生涯を誓い合うことを、一時期はあたしも憧れていた。
きっかけこそ、ふと頭を掠めた老後の孤独死を避けたがってのことだったにしても、マッチングアプリにまで手を出した。そこで優香を通してみなぎと関わり、彼女に心を削るだけに終わった。そのみなぎとも連絡がつかなくなって、もう一ヶ月が経つ。