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貴女に溺れて彷徨う
第6章 苦みを消した実利の飴
従業員の一人がバックヤードに入ってまもなく、遅番の女の子が出勤したので、みなぎも休憩をとれることになった。
あたし達は近くの公園に場所を移して、木陰のベンチに並んで座った。
「美味しい。そう言えば、初めて莉世の手料理食べた時は驚いたのを覚えてるわ。意外と健康的な味付けだったから」
「ね?ひなた。みなぎってば酷いでしょ。いつもこんな調子であたしのこと陽キャ呼ばわりして、色々偏見の目を向けてくるんだ」
「莉世さんは綺麗なので、仕方ないですぅ」
「可愛いひなたに言われたくない」
「二人とも、外でイチャつかないのっ」
「みなぎ厳しー」
快晴の空を明るめる柔らかな陽が、初冬の街に降りていた。
三年前のこの季節、あたしはみなぎに何度目かの告白をした。
将来を誓うのを前提に、彼女の想いが欲しかった。彼女と生きていけていたらと、今も時々、思いを馳せる。そんなあたしのふんわりとした未練は、ひなたが気づいていないはずない。あんなにも好きで、愛おしくて、みなぎなら何を捧げても惜しくなかった。
そのみなぎと、今もこうして共にいられる。たまに彼女に化粧しては、初めてそうした時と同様、あたしは彼女の花の綻ぶような笑顔を見る。
これが正しかったのかは分からない。
少なくとも、ひなたがかけがえのないパートナーなら、彼女は無二の親友になった。
貴女に溺れて彷徨う──完──