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渇いた心に水を注ぐ
第11章 働き方改革〜圭人
「えっと…。
叔父さんの事務所で、俺を雇って貰えませんか?
勿論、新卒扱いで構いません。
彼女と結婚しようと思ってるけど、
今の仕事だとあまりにも時間も不規則で、
負担を掛けてしまうから。
普通の会社勤めも考えたけど、
資格を活かして一からもう一度、
叔父さんの下で修業させてください」と頭を下げた。


「困ったな」


「えっ?」


「私のところは、子供も居ないし、
跡継ぎも居ないから、
来年あたりには事務所を畳んで隠居しようと思っててな。
それで、事務員さんも辞めて貰ったんだよ」


「だったら、その事務員さんを俺がするので良いから、
働かせてください。
お願いします」


「圭人、じゃあ、私からのお願いを聞いてくれるかな?」


「何ですか?
何でも聞きます」


「じゃあ、ちょっと出掛けようか?
真由子さんもご一緒に」と言って、
いつも被っているお洒落なボルサリーノを被ってステッキを手に立ち上がった。


「あの…御御足が…?」


「ああ。
若い頃、スキーでね」と優雅に歩く叔父さんは、
姉である俺の母とはあまり似ていない。


少し歩いてオーダーメイドのスーツを作る老舗のテーラーに着いた。
ここは、父も良く使っていて、
俺や兄貴も連れて来られたことがあった。


「まず、服装。
そんな格好では仕事にならん。
ハッタリも大事だからな?」と言って、
顔見知りらしい店員さんに採寸を頼むと、

「真由子さん、一緒に生地でも選びましょうか?」と笑う。


「おや、中川様のお嬢様?
お久しゅうございます」と、
奥から鼻に眼鏡をずらした顔で、
オーナーさんが真由子ちゃんに声を掛けてきた。

「今日はお父様とご一緒では?
おや、小林様と、鈴木様のご子息とご一緒でしたか?」と言いながら、奥へと入って行く。


「真由子さんのお父上もこちら、よくいらっしゃってるんですな。
奇遇です」と叔父さんが言う。
そして2人は楽しそうにスーツの生地やシャツの生地を一緒に選んでいた。


「こちらは…
圭人さんよりおじさまの方がお似合いになりそう」と真由子ちゃんが言うと、
「じゃあ、私も誂えるかな?」と楽しそうに答えていた。


採寸が終わると、
2人は肩から生地を当ててる生地からテキパキと選ぶ。

そして、一着だけ、直ぐに着れるものをと選んで、
裾上げをお願いしてから一度お店を出た。
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