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渇いた心に水を注ぐ
第14章 小さな結婚式〜真由子
お土産なんかを見繕っている時、
「何か、記念になるようなもの、買いに行こうよ」と圭人さんが言った。


「でも私…欲しい物、思いつかないわ?
そうだ!
圭人さん、毎日スーツだから、
ネクタイ選びましょうか?
私には、スカーフを選んで?
お父様やお祖父様達のお土産も、
一緒に選びません?」と言って、
エルメスの本店に足を運んだ。


観光シーズンで日本人の方も多いようだったけど、
フランス語で話し掛けると途端に待遇が良い感じになった。


祖父母の名前を出してみて、
担当の方はいらっしゃいますかと尋ねてみると、
奥から年配の素敵なマダムが出て来た。


孫娘だと伝えると、
目を細めて懐かしそうな顔をして、
早口に話をする。


母は父の仕事でパリ滞在中に良く祖母とここに来ていたことや、
とても小さかった頃に私も一緒に来たことがあると言った。


新婚旅行で来ていることと、
前日までエクスの祖母の家に滞在していたことを伝えると、
会いたかったと残念そうに言うので、
その場で祖母に電話をして、
私の電話を渡すと楽しそうに話を始めていた。


ひとしきり話をして電話を終えると、
にこやかに、
「少しお待ちを…」と奥に行ってしまった。


そして、白い手袋を嵌めてバッグを手にしたスタッフを2人引き連れて戻って来ると、
「こちらはお祖母様からのギフトです」とクロコダイルのバーキンと、
男性用の黒い鞄を置いた。


「えっ?
あの…?」と言うと、
「今、お電話で申しつかりましたので。
ご結婚のお祝いだそうです。
お嬢様にはこちら。
ご主人様にはお仕事用の鞄をとのことです」


もう一度、祖母に電話をすると、
「真由子ちゃんは、物欲がないから、
後から送り付けようと思ってたのよ?
そのまま、持ち帰ってね?」と笑って言った。


あまりのことにネクタイとスカーフのことを忘れそうになってしまい、困惑していると、
持ち手のところに丁寧にツイリーを巻いてくれているのを見て思い出して、
結婚式の写真を見せながら、
それぞれに似合いそうなネクタイやスカーフを一緒に選んでいって、
「こちらは私達から日本の家族へのお土産なので!」と、
一緒に会計されそうなのをなんとか阻止した。


「お幸せに!」とお店を出る時にハグとキスをされた時の濃厚で甘い香りが、とても懐かしく感じた。


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