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渇いた心に水を注ぐ
第16章 狂気から静寂へ〜賢人
そして、妻の絵美が…
浮気ならともかく、
他のオトコとの間に子供を使って、
出て行ってしまったことは僕にかなりのダメージを与えた。


両親からも疎まれてしまって、
母は圭人達を家に取り戻そうとしているようだった。


そんなことは耐えられない。



だったら、
圭人から真由子さんを奪えば良い。

そう思うようになった。



英一みたいに、
真由子さんを拘束して、
無理矢理、怖がる真由子さんを思い通りにして、
その後、舐めるように可愛がってあげよう。


そのことばかり、考えるようになって、
それで、絵美のことは忘れることが出来た。




それなのに…。


真由子さんは、
僕を受け入れるより死を選ぼうとしたのか。

カップの破片なんかで、
死ねる訳はないのに、
首筋に突き立てようとした。


ギザギザの醜い傷から、
血が滲み出て、
白いタオルがみるみる紅く染まるのを見て、
僕は冷静さを取り戻していった。


家政婦に、
「ガーゼ取って?
早く!
そこの棚に、薬箱あるから!」と声を掛けて、
タオルで止血を続けた。


圭人が少し動くのが視界に入る。

ヨロヨロと動きながら、
僕を突き飛ばして真由子さんを庇うように抱き締めるので、

「止血続けないと!」と言って、
圭人を突き飛ばした。


「な…何をしたんだ!
これ、どういうことだよ?」と、
呂律の回らない口調で詰め寄る。


家政婦が泣きながら謝りだす。


「あの…申し訳ありません。
これをカップに入れるように言われて…。
ふざけて、変な味のを出すだけだって…」


「ああ、もう、あっちに下がって良いよ。
大丈夫だから」と僕が言うと、

「大丈夫って?
真由子ちゃんが…」と、
自分の上着を脱いでそっと掛けて抱き締めて、
僕のことを睨んだ。


そこに、母が帰宅して、
応接室に入って固まってしまった。
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