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渇いた心に水を注ぐ
第16章 狂気から静寂へ〜賢人
確かに…。

あまりにも無垢で美しい胸を見た瞬間、
時間が止まったような感覚になった。

それほど、真由子さんは尊くて、
手を出すことを躊躇させる美しさだった。


でも、
卑怯なことをする気満々だったのは事実だ。




部屋の空気を変えるように、
おっとりした口調で真由子さんが話を続ける。


「だいたい、どうして、
お兄様と圭人さん、
そんなにいがみあってるんです?
2人しか居ないご兄弟なのに…?」


「それは…圭人が可愛がられてたから…」


「年齢が少ない方が可愛がられているように感じてしまうだけじゃないですか?」


「兄貴は勉強も出来て、
オヤジに似てて、
いつも可愛がられてたよ。
俺、いつも無視されてた」と圭人が言う。


「確かに似てらっしゃいますものね?
でも、それって、
なんでも出来るお兄様への憧れの裏返しじゃないですか?
それで、ついついお家じゃなくて、お祖父様達の処に逃げ込んでたんじゃないですか?」


僕と圭人は思わず顔を合わせる。


「一人っ子の私から言うと、
ご兄弟がいること自体、
とても羨ましいですよ?
仲良く過ごすことも、
喧嘩することも、
全部、羨ましいわ?」


「私も…2人のこと、
あんまり考えてなくて…。
自分のことばかりだった。
仕事を如何に伸ばすかばかり。
それに、両親は弟ばかり可愛がってて、
私、嫌われてたから。
圭人はクォーターで可愛かったけど、
両親が可愛がってたから、
邪険にしてたかも」と、
母がしんみりした口調で言った。


「まあ、サロンの仕事が子供みたいなもんだったしね」と、
僕はずっと思っていたことを口にした。


「で、病院の方は自分が継ごうと思ってたのに、
妻は浮気して出て行って、
もう僕が継ぐのもキツいから、
圭人に戻って貰うってことなんだよね?」


「どうして、継ぐのがキツいんです?」


「これから再婚して、
跡継ぎ作るとか、無理でしょ?」


「再婚はお相手見つかれば出来ますよ?
跡継ぎは…女性と違って、
年齢的なリミット、ないですよね?」と、
真由子さんが言うので、

「まあ…そうだけど」と言った。


「だったら、別に、
圭人さんが病院継ぐ必要、ないですよね?
あとは、お兄様がお相手、見つけるだけですよ?」と、
真由子さんはニコニコしながら言った。






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