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渇いた心に水を注ぐ
第5章 修羅場は突然に〜圭人
俺は少しずつ状況を整理していこうと思った。


梨香子と一緒に居た頃は、
ただ、がむしゃらに働いていた。

サロンを有名にしたい。

それだけだったし、
それ自体、俺と梨香子の為になると思っていた。


でも、離婚してから残ったものは、
特に何もない。

梨香子も何も言わなかった。
浮気についての弁明も、
結婚生活についても、
離婚についても、
本当に何も言わなかった。



そして、梨香子のことを思い掛けず、
兄貴から話を聞くことになったのも衝撃的だった。

結婚前から、兄貴と兄貴の奥さんと3人で、
セックスしてたって言われて、
何が何だか判らなかった。

「お前と結婚したいって言ってたから、
シナリオ描いてやったんだけどな。
結局うまくいかなかったんだな?
でも、俺としては、
親父の跡取りレースからお前を蹴落とせたから良かったけどな」

そう言われた。

跡取りって言っても、
それは同じ医者になった兄貴だろうと思ってたけど、
兄貴にしてみたら母親に可愛がられている俺、
邪魔だったらしい。


これから何をしよう?

そう思った時に、
実は俺には自分の意思というものがなかったような気がした。

親に言われて、なんとなく進路を決めて、
資格を取った。

役に立つかと自分で選んだヘアメイクの仕事は、
唯一楽しいとは思ったけど、
それにのめり込んでしまって、
結果、結婚生活を無くしてしまった。

2人の為とか言っても、
結局、自分が楽しくて、
自分の為にやってたような気がしてきた。

それで結果、
独りぼっちだ。

俺、梨香子のこと、
好きだった?

そんなことを考える時点で、
俺、酷くないか?

自己嫌悪。

なんか、恋愛の仕方も忘れた。
結婚も梨香子のペースに巻き込まれたしな。

ダメだ。
変に時間があるとそんなことを考えてしまう。
やっぱり忙しくしておくのが一番なのかな。






「…そんな時に、
真由子ちゃんに出会った。
局の仕事から戻って見てみると、
毎日、お水をあげてくれてる人が居るのに気づいた。
一度だけ夕方、後ろ姿見かけたけど、
時間帯が合わないのか、なかなか会えなかった。
これは朝、待ち伏せするしかないかなと思った。
土日に早起きしてみようかなって。
それでやっと、真由子ちゃんに会えたんだ」と言うと、
真由子ちゃんは泣き笑いした。
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