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駆け込んだのはラブホテル
第15章 入浴剤
「桜木さん、見えるところに痕残したら怒ります?」
「……怒り、は、しないですけど」
桜木は戸惑いつつ考える。
「うーん……ちょっと、困るかも」
「困るかあ」
守屋は桜木の背中を抱き寄せる。変なところに触らないようにしながら。
「じゃあやめます」
桜木は無理に背中を丸めて湯船に沈んでいたようで、引き寄せてみると鎖骨のあたりまでは余裕で水面から出た。
「ありがとうございます……すみません」
「謝らなくても」
桜木の気持ちもよくわかる。
困る提案をしてしまった守屋のほうが謝らなくてはいけないくらいだ。
「……痕残ったら、そういうことなんだなって思われちゃいます」
そう言って桜木は、他部署の女性社員の名前を出した。
守屋にとっては、桜木と同じぐらいに入社した、という仄かな記憶がある程度だった。
「すみません、この一週間耐え切れなくて、話しちゃいました」
「いいっすよ、別に」
そうか、人に言ったのか、というのを気恥ずかしくも思いながら、でも嬉しいという気持ちもあることを守屋は自覚していた。
「えーと、総務のかたでしたっけ」
「総務です。一応同期の中で、いちばん口硬そうな子選んだんですけど」
彼女は首を傾げる。
「相談した手前、報告もするつもりではいるので……誰の仕業かわかるのは、ちょっと恥ずかしすぎるでしょ?」
「まあ、それは、俺が恥ずかしいですね」
仕事上の知り合いに、彼女の首に残ったキスマークを見るにつけ、それを残した人を思い浮かばれるというのは、さすがに。
「見えないとこにしときます」
「見えないとこにはするんですか」
それについては桜木は笑って、さほど嫌そうにもしなかった。