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駆け込んだのはラブホテル
第15章 入浴剤
「報告するんですか」
「いや、だって……」
「報告したら、席離されちゃうかもしれないじゃないですか」
今現在、守屋と桜木は隣の席だ。もしふたりが付き合っているとなると、周りは気を遣うかもしれないし、席を離されるかもしれないし、ひょっとしたらどちらかが隣のチームに飛ばされるかもしれない。
「……ほんと、桜木さん、肝据わってますよね」
守屋はため息をつく。守屋としては、隣の席で素知らぬ顔で仕事している自信がないから、周囲から噂が伝わって、同じような隣のチームに移動して……というシナリオを想定していた。
「もちろん部長にもみんなにも気を遣わせるだろうし、隠しておくというのも手だとは思ってるけど、正直、平気でいられる気がしないよ」
「まあ、結婚するときにはどっちみち報告しなきゃですしねぇ」
桜木が心配しているところは、守屋とどうやら少し違う。それが、
「頼もしいな、桜木さん」
思えばはじめからそうだった。
肝が据わっている。それは昨日今日や、先週の出張のときに限らない。彼女と仕事をしてきたこの数年、失敗しても長くは引きずらないところとか、やると決まったことに対する思い切りの良さとか、そういうところに守屋はずっと惚れていて、きっとこれからも惚れていく。
「好きだ」
その言葉は、自然に守屋の口をついて出た。
「ありがとうございます」
桜木はふふっと笑って、
「私も好きですよ」
と囁いた。
桜木と普通に話せることに、守屋は安堵した。
桜木の素肌を白いお湯の中で撫でながら、守屋は、ずっとこのままでいたいような、安心感を覚えた。