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駆け込んだのはラブホテル
第15章 入浴剤



 しかし、もちろん一生こうしているわけにはいかない。チェックアウトの時間もあるし、流石に暑くもなってきた。
この湯船は先日の安ホテルと違って、ちゃんと保温がされているようだった。



「そろそろ出ますか」

「はい」

 桜木も素直に頷いたのを確認して、守屋は洗い場に出て、シャワーで体を流す。



 そこに桜木が声を掛けた。

「……守屋さん、」

「はい?」



 湯船を振り返ると、桜木はさっきまでよりちょっと体をお湯から出していて、湯船の縁に腕を掛けていた。



「すみません、ちょっと……急いでいただいてもいいですか?」

 その顔は赤かった――。



 それもそのはずだった。
こんなに長く浸かるつもりでなくて、自分が入るころには冷めることも考えて、守屋は少し熱めにお湯を溜めていた。
そこに、桜木は、守屋より長く浸かっている。



「すみません」

 守屋は体に残った入浴剤を洗い流すのもそこそこに、シャワーを置いて洗面所に出て、扉を閉めた。

「いいですよ。出てください」

「ありがとうございます……」



 その声は、弱々しく聞こえた。



 守屋が下着を履き、新しいバスローブを出していると、水音と、洗い場に足を降ろす音がして、桜木が湯船から出たのがわかった。
しかしそこから先――シャワーの水音も、体を拭く音も聞こえなかった。



「桜木さん……大丈夫ですか?」

 思わず声を掛けた。返事はなかった。



「……桜木さん?」

 人が動く気配がまったくない。

「桜木さん、開けますよ?」



 返事がないのに痺れを切らし、

「……すみません、開けます!」

 宣言して守屋はドアを勢いよく開け放った。


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