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駆け込んだのはラブホテル
第4章 「水着よりは守備範囲広いです」



「ウーロンハイで」

 守屋の首筋を、桜木の髪が微かに擽る。知らない香りが守屋の鼻腔を擽る。



「……わかりました。桜木さんがお風呂入ったら、注文します」

 今は、桜木の前で立ち上がれる状態ではない。



「すみません。ありがとうございます」

 桜木も、雨で湿った体がエアコンで冷えてきたのか、何度も謝りながらも、先に風呂をもらうことを遠慮はしなかった。



「すみません、お先に失礼します」

 桜木は、ベッドの上にあった白い寝巻きに自分の下着を包んで、バスルームに消えていった。
守屋は、ベッド脇の電話でフロントに食事の注文をする。
対応したのは低い声の女性だった。淡々とした様子だった。



 しかし、次から次へとよくもまあ問題は浮上するものである。

「生憎、ウーロンハイは切らしておりまして」

 電話の向こうのその声に、

「わかりました、少々お待ちください」

 仕事の癖が抜けない口調でそう律義に答え、受話器を保留にした守屋は、バスルームのドアに近寄った。



「桜木さん」



 シャワーの音がする。



「桜木さん」



 聞こえていないようだった。


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