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駆け込んだのはラブホテル
第1章 大雨とダブルブッキング



 怒ったって駄々を捏ねたって部屋が増えるわけでもないので、守屋と桜木は一旦ホテルを出たのだが、そこからが問題だった。
ホテルのフロントで見つけられなかった空室が、余所者に見つかるわけもない。
おまけに大降りの雨まで襲ってきて、結果、とあるホテルのエントランスまでふたりは追い込まれることになった。



 ホテル、という看板がビルの隙間から覗いていたのを見つけたのは桜木だった。
最後の望みを託し、その建物の下まで来て、ようやく異変に気づく。
宿泊または休憩という不思議な料金設定。狭い入り口。
とりあえず雨だけでも凌ごうと入り口の自動ドアをくぐっても、フロントもなし、迎え入れてくれるスタッフの影もなかった。代わりに大きなスクリーンが煌々とフロアを照らしている。



「でも、ほら、女子会とかビジネス利用でこういうホテルを使うことも、最近は多いみたいですから」



 変な空気にならないように守屋が言った咄嗟の言葉のせいで、ここでも一応空き部屋を確認しなければいけない流れになってしまった。



 桜木は、さすがデジタルネイティブ世代(といっても守屋と五歳しか離れていないのだが)、すぐに操作方法を掴んだようで、すいすいとタッチパネルを動かして、空室情報を確認していった。
守屋は黙って斜め後ろでそれを眺めていた。



 四月にしては熱がこもるような空気の日だった。
速足で歩きまわって汗ばんだせいもあり、傘だけでスーツケースとビジネスバッグと自分自身を守り切れるレベルの雨ではなかったこともあり、桜木ポニーテールの後れ毛が、しっとりと項に張り付いていた。
指摘したら恐らくセクハラだろうと思って言わなかったが、白いワイシャツの下に、桜木の下着の紐が透けていることに、守屋はずっと気がついていた。

そんな彼女と――異性である会社の後輩と、ラブホテルはさすがにまずいだろうという思いは守屋にはあった。社会的にも、人間的にも。
しかし、明日も仕事、しかも顧客訪問だ。このまま夜を明かすわけにはいかない。
自分はともかく、少なくとも桜木だけは、ちゃんとベッドで寝てもらいたい。
はじめての出張がこれで、桜木に苦手意識が残らなければいいが。


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