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駆け込んだのはラブホテル
第9章 帰りたくないと言ってくれ
桜木が濡れてしまう、というのももちろん傘に入ることを断った理由としてあったが、これ以上桜木と近づいてはいけない、これ以上桜木とふたりきりでいてはいけないという思いが、守屋の中にあった。
「本当に、僕は大丈夫ですから」
守屋が念押しでそう言うと、桜木は黙って俯いた。
桜木は、歩き出そうとしなかった。
何か言いたげな雰囲気に、守屋は次の言葉を待った。
雨音だけが、静かに響いていた。
通りすがる人もいなかった。
しばらくたって、ようやく桜木が言葉を発した。
「私が大丈夫じゃないんです」
桜木が、ぐっと守屋を見上げる。目線が合う。
「って言ったら、怒りますか」
守屋が唾を呑む音が、やけに大きく響いた。