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駆け込んだのはラブホテル
第10章 心変わり
こんなに至近距離で桜木の目を見たことがなかった。
茶色がかった瞳が揺れて、守屋が唾を呑むと、ごくりと大きな音がした。
桜木が、ゆっくりと目を閉じた。
ちょっと俯いて、けれど俯きすぎることはなく、じっと動かないで、守屋を待っていた。
それに吸い寄せられるように守屋は、顔を近づけた。
桜木の首筋に手を添えると、桜木がぴくりと肩を震わせた。
ぎゅっと閉じられた唇は何かを耐えているようだった。
もう少しで唇と唇が重なるところだった。
彼女の眉間に皴が寄っていることに、ぎりぎりのところで気づけてよかった。
「……っ駄目だ」
手離しそうになっていた理性の糸を、何とか引き留める。
守屋は桜木から離れて立ち上がった。
そのまま歩いていって、ベッドの反対側に回り、ベッドを背もたれにするように床に座り込んだ。
桜木は、待ち顔で取り残されたまま呆然としていた。
「煽らないでください」
守屋の声は泣きそうだった。
「これで結構我慢してるんです」
「我慢、しなくていいって言ってるのに」
桜木はのろのろと後ろを振り返った。
ベッドの下に、守屋の後頭部だけが見えた。
「何もしてくれないのは、私じゃその気になれないからですか?」
「最初からずっとその気ですよ!」
守屋が語気を荒げて桜木を振り返ると、体を捻って屈んだ桜木の襟元が緩んでいて、たまたま角度的に、奥の方まで覗けるようになっていた。
薄いレモン色の下着の端が、レースになっていることがわかるぐらいには、見えてしまっていた。
守屋は慌てて視線を正面に戻した。
代わりに見つめたピンク色の壁は、よく見ると薄汚れていた。
「すみません、大きい声出して」
「いえ……こちらこそ、ごめんなさい」