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駆け込んだのはラブホテル
第10章 心変わり



 向こうを向いてしまった守屋と同様に、桜木も襟元を直しながら前を向く。
このタイプの寝巻きはすぐ崩れるので苦手だ。
守屋の視線の動きで、彼が何を見てしまったかは察していた。



「桜木さん」

「……はい」

 お互いの姿が見えないまま、背中合わせで二人は言葉を交わした。

「桜木さんがどうかはわかりませんが、僕は、本気です」

「…………」

「と、言葉で言っても信じてもらえないと思いますが」

「……そんなこと、」



 ない、と、桜木は最後まで言い切ることができなかった。



「いいんです。ここまでしておいて……昨夜から、今まで、体目当てだと思われても仕方がないとわかっています」



 桜木が局所的にガードが緩いのは、守屋のせいではなく、これまでの人生のせいだった。
特定の恋人がいたことがないというのは、案外根深く桜木の心に影を落としていた。

 守屋はそれを薄々察していた。
桜木は、恐らく今夜限りでもいいと思っている。
自分が桜木のことを好きでなくてもいいと思っている。
けれど、守屋はそれは嫌だった。
ちゃんと桜木に安心してほしいし、そのためには、入り口として体の関係というのは避けたかった。

世の中にそういう始まりかたがあることは否定しないが、経験値のない守屋が、桜木の心を惹き付ける手段としてそれを選ぶことはできなかった。

守屋もそれなりに、自分のこれまでの恋愛歴を引きずっていた。


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