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君と偽りのドライブに
第9章 1‐8:知らない顔
廊下も部屋と同じく真っ暗だった。
慣れない間取りをわずかな明かりと手探りで図りながら、香澄ちゃんの部屋の前を通り過ぎ、お父さんとお母さんの部屋の前を通り、誰もいないおばあちゃんの部屋を通り過ぎ、階段をくだると、ようやく私は一点の光を見た。
リビングの明かりが、扉に填め殺された磨りガラス越しに淡く光っている。
私はその扉に近づくと、そっとノブに手を掛けた。
ゆっくり扉を引くと、蝶番がきぃと軋んで、ここまで息を潜めてきたのが台無しだった。
「……有紗」
こちらに背を向けたソファから振り返ったのは、やはり哲弥だった。
灯っているのは蛍光灯ではなく、間接照明だけだった。
けれどその淡いオレンジ色の光の中でも、彼の顔が赤いことははっきりとわかった。
「飲んでるの?」
哲弥は慌ててローテーブルの上の缶を隠そうとするけれど、もう遅かった。
素早く目で数えるところ、四本――すべてビールのロング缶だ。
哲弥の雑な手つきに、そのうちひとつがカランと倒れて、静寂に場違いな大きな音が響いた。中身が空っぽの音だった。
「哲弥、四本も飲めるほど強くないじゃない」
単純な驚きでそう口にすると、
「……知ってるよ」
反抗的な声が返ってきて――心配になる。
哲弥らしくない。