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君と偽りのドライブに
第9章 1‐8:知らない顔



「どうしたの」

 私はリビングに入って扉を閉めると、ソファの彼の左どなりに座った。
哲弥は、やっぱりお酒に飲まれた赤い顔をしていた。
あまり私の得意じゃない、ビールのにおいがした。

「冷蔵庫に余ってた」

 ……そうじゃなくて。



「どうしてお酒飲んでるのかってこと」

「……寝たくて」



 クッションだと思ったソファの上の塊は、枕だということに私は気がついた。
彼の膝からずり落ちているのは、同じく彼が二階の部屋で使おうとしていた掛け布団だった。



「寝れなかったの?」

 彼はしばらく耐えるように唇を噛んでいたけれど、じきに黙って頷いた。



 口元はへの字に曲げられていた。
彼が酔っている姿は滅多に見ない。
私服といい、車の運転といい、今日は、はじめて見る表情ばかりだ。



 こんなに長く傍にいるのに。

 私は、彼のことを何も知らない。

 彼が何に泣き、何に動揺し、どうすれば落ち着くのか、私にはわからない。


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