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ジュエリー
第1章 宝石は珊瑚に恋をする

* * * * * * *
最後に抱いた女に逃げられる夢を見て、目が覚めた。
肉欲だけの関係だった。とりたてて気に入った女でもなかった。デートは二度、最初より肌の露出が大胆だった。少し美人で、一度恥じらいを放棄したあとは、惜しげもなく嬌態を押しつけてくる女だった。
夢の中で、女は顔も知らない男の部屋に入った。蝶が真新しい花を見つけた風に、軽らかに、たわやかに、ひらりと舞って。
束の間でも愛でた女が、ぼうぞくな腕の中を選んだ光景は、想像以上にショッキングだった。凍てつくような喪失感は、夢うつつを彷徨う意識を、それなりに打ちのめしてくれた。
珊瑚が目覚めると病室にいた。
くすんだ白の支配を受けた空間は、アルコール臭が鼻につく。徹底された清潔も、度を超えると、不快をもたらすものになるのか。
「おはようございます」
自身の病衣に顔をしかめて身体を起こすと、見知らぬ女と目が合った。
硬い布団によく合う粗末な寝台の側に、彼女は婉然と膝を揃えて座っていた。
黒い長髪、もの柔らかな双眸、女の体躯は適度なまろみを帯びていながら、腕や腰はすらりと細い。白いブラウスに半袖のカーディガン、品良く広がるフレアスカートは、よく見てやっと分かる程度に小花の刺繍が入っている。
女が名乗った。
そこで珊瑚に、眠る間際の記憶が戻った。同時に、彼女が見舞いに来た事情を察した。

