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ジュエリー
第1章 宝石は珊瑚に恋をする

「村田さん、気に病まないで下さい」
珊瑚は、一通りの謝罪を終えた女の腕をさすった。そして、自分より一つ年下の彼女の顔を覗き込む。
アーモンドの実に似た形の目許に、シャープで平滑な鼻梁、澄んだピンクのつやを引いた唇は、とても清らかなメゾを奏でる。彼女には裕福層の奥方らしく、しとやかな風格が備わりながら、二十六という花盛りの女らしい、天衣無法の情緒があった。
「貴女の配偶者に罪はありません。それは、最低以下にコストを抑えて交通整備をしようだなんて、彼らのがめつい守銭奴根性には呆れておりましたし、求人広告の記載に虚偽があったのは事実です。けれどもあたしが寝不足で倒れたのは、一日平均十時間、週六勤務を余儀なくされたからではありません」
問題の改修の行われた道路は、他県の笑いものになっていると聞く。ずさんな計画は市の財政難に拍車をかけただけにとどまらず、住民達の交通事情に支障をきたした。甘い汁を吸ったのは、工事を請け負った業者だけだ。
三ヶ月前、春先、珊瑚は以前の職場を解雇された。よくある店舗の閉店だ。貯金も尽きて、いよいよ路頭に迷いかけた頃、交通整備という職種にありつけた。
だが、五人採用されるはずの整備員は、珊瑚を含めて二人だった。
それには驚かなかった。以前いた販売店でも、似たことが起きていたからだ。駅前にも関わらず従業員は僅か三人、事業主にしてみれば、いかに人件費を抑えて利益を懐にかき込むかこそ課題だ。
もっとも、珊瑚は帰宅しても、家事を済ませば眠るだけだ。やくざな雇い主に対しても、抗議するほど不便はなかった。

