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ジュエリー
第1章 宝石は珊瑚に恋をする

ところが、状況が変わった。
ただ生きているだけ。この事実を意識した途端、ぞっとした。
仕事が趣味だの何か目標を定めているだのなら、それで良い。だが、ただ単に生活するために働くだけでは、美しさに欠けていないか。
需要と供給、経済体制としての資本主義は、社会の吝嗇に輪をかけた。人間は私欲に陥って、その動機には目を向けない。
珊瑚は命を繋ぐ重要性を懐疑した。稼いで食べていくことに、価値を求めた。
夜な夜な女と宿に入って、時には明け方、ゆきずりの遊び相手を部屋に招いて、淫らな遊戯に耽ってみた。
女は一人に特定しない。ロマンティストを気取るつもりはなかったからだ。
煩わしいモラルで監視し合って、醜悪な我欲の蔓延る人の世で、それらどちらにも該当しない快楽に身を沈める。肉体を生かすための何の役にも立たない情事に身も心も解放して、初めて、珊瑚に清らかな生気が戻った。

