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ジュエリー
第1章 宝石は珊瑚に恋をする

女は親しみやすかった。
珊瑚は強制入院させられた初日、慣れない暇を彼女で潰した。
それから一週間、珊瑚は平坦な日次を送った。
診断の結果は大したように思えなくても、目眩や不正出血が見られた場合、寝不足でも重度らしい。退院の申し出が却下されたのも、何か起きたあとの責任を、上の人間が避けたがったからだろう。
一週間、女は毎日訪ねてきた。昨晩の月を撮影したから評価しろだとか、手製の焼菓子を味見しろだとか、受験を控えた息子との接し方に行きづまっているだとか、彼女の用向きは種々あった。珊瑚は女のとるに足らない用が済むと、彼女ととりとめない閑話をした。
「木下さんは、ご家族と離れてお住まいなのね。お仕事と家事を一人でされるなんて、大変でしょう。整備のお仕事なんてやめて、若いんだし、別の職場をお探しになったら?」
「ありがと。あたし、環境変わるの苦手で……もう良いかなーって思っていたけど、そうする」
「何かあったら、お話、いつでも伺うわ。今日で退院ね。お見舞いにお邪魔しておきながら、私のことばかりお話ししてしまって……。公務員の家内も、世間のイメージほど楽ではないの。遊びに出るにも許可がいるし、学校時代のお友達と会っても、良人の仕事の内情とか、ぽろっとこぼしてしまったら、それはもう大変。もっとも彼の実家は厳しくて、私は作法やマナーの勉強で、精一杯。長期連休は田舎に帰って、お義母様のお手伝いだから、目くじらを立てられないように。環境は違っても、木下さんは共感出来るお友達だわ。お互い、生きていると色々ストレスってあるものね。これからも時々会っていただけない?」
それほど難しい男なら、さっさ絶縁すれば良いのだ。
珊瑚はこの一週間、何度も喉元まで込み上げてきた本心を、今また飲み込んだ。

