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ジュエリー
第1章 宝石は珊瑚に恋をする







「私にとって広松さんとの交際は、世の中の娯楽を覚えたばかりの女子大生が、ブランド品で着飾って、美しいアクセサリーを身につけるのとおんなじ序列にあるものだったの。議員の恋人……それは胸を張れる学歴を積んできた私にとって、完璧な学生としての総仕上げだったのかも知れない。周囲からの称揚、何より大きなものに愛寵される安心感、恍惚。私はそうしたものをこの手で得た、私自身を愛していた。私は私を愛していたくて、白髪の混じった男の人との交際を、卒業後も続けていたの。会社ではやり甲斐のある仕事をすぐに任せてもらえたし、親切な先輩や同期に恵まれた。上層部の方々は、努力すればした分だけ、社員を評価してくれる。だから私は、広松さんにプロポーズされた時、仕事だけが心残りだったの。議員の奥方が労働するわけにはいかない。私はしばらく悩んで、そしてあの人との生活を選んだ。結婚というものを経験しておきたかったの。普通の女性が経験すること、早いか遅いかの違いだから」


 女の断片的な昔話が終わった。


 珊瑚は昼間のカフェテラスの一角で、アイスティーを泳ぐ氷とグラスの奏でる澄んだ音色を聴きながら、女の話を胸の内で反芻していた。
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