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ジュエリー
第1章 宝石は珊瑚に恋をする

完璧、努力、普通。
どれも曖昧で脆弱だ。そんなものに縋ったが最後、いつか頭が破裂する。
完璧というものが幸福に繋がる保証はない。努力はひとたび音声にすれば、独善的な概念でしかなくなる。そして、仮に普通というものの定義が確立されていたとする。さすれば大多数の人間がそれに該当したがるだろうから、自分まで、統制される必要性があるものか。
珊瑚は、女と会って抹消的な議論を重ねるほど、憫諒の気持ちが募っていった。そして憐れみは、時に婬情に昇華する。
「宝石が宝石を欲しがるなんて、共食いする鈴虫みたい」
「えっ、……」
珊瑚はストローを氷に戻して、女の手首をやおら掴み上げた。
長い睫毛に装飾されたアーモンドの中で煌めく黒目が、無邪気にたゆたう。まろみを帯びた小さな鼻先、薄紅の頬、女のやんごとなき風貌は、それでいて可憐と呼ぶに匹儔する。
珊瑚は、女の奥深いところに眩耀を見出だしていた。猛然たる光、強烈な清澄、そして骨の髄まで侵食されんばかりに濃艶なものが、女の、否、宝石の奥深いところで舌なめずりしていた。

