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ジュエリー
第1章 宝石は珊瑚に恋をする

* * * * * * *
くだらない連中と付き合うな。馬鹿な学校に行かせるような余裕はない。
それがたつきの父、広松(ひろまつ)の口癖だ。
この父親が再婚したのは昨年、惜春に最も愛されるのだろう花々が、薄紅を散らしていった頃だ。
たつきは真新しい母親を、お義姉様と呼んでいた。
怜悧な瞳、婀娜っぽくもゆかしい物腰、お義姉様はとりたてて華やいだ女ではなかったが、異性という存在にまだ馴染みのない未成年の男子にとって、彼女のような新参者は、ささやかなときめきへの憧憬を満たすに匹儔した。
お義姉様は、今時珍しいほど、配偶者を立てる才幹に長けて、明るく、そしてあまりに若かった。
その朝も、たつきは、ようやく新婚気分の抜けつつある両親を覗き見ていた。
「今夜も一時間は定時を過ぎる。難儀なもんだ。例の予算が合わなくてな、……もちろん、何とかなる。補正が通る見込みはあるし、他のやつらも真面目に会議室にこもっているつもりはない。かくいう俺も、一時間は仮眠に使う」
「お疲れ様、貴方。分かりました。たつきさんにはおやつを出して、お夕飯は待つことにするわ」
「それは困るよ」
広松が快調にシューズを履いて、広い間口の玄関先で、美しい細君にわざとらしく顔をしかめた。
「あれは来年、大学へ行く。受験までもう半年だ。名前を書けば受かる阿呆な学校ならともかく、俺はあれには◯◯か◯◯にしか、行かせるつもりはない。落ちてみろ、浪人させて、俺まで世間の笑い者になる。お前は余計なものを出す暇があるなら、しっかり勉強するように、厳しく言え」
「はい。……たつきさんは、努力家です。前回の中間考査も、クラスで三位」
「学年は」
「八位です」
ふんっ、と、鼻を鳴らした広松が、横柄にバッグを引ったくった。
「話にならんな」

