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ジュエリー
第2章 別離

 清淑な継母、お義姉様と呼び慕う女の美しさに、最近、磨きがかかった。今思えば以前は生きながらに死んでいた、お義姉様の変貌ぶりは、さしずめ傀儡が息を吹き返したようで、彼女の変化は同じ屋根の下にいても明らかだった。

 ある土曜日、たつきは塾のテストから、予定したより随分早く帰宅した。

 玄関先に、覚えのない女の靴が揃えてあった。ぴんときた。お義姉様の友人だ。

 たつきのテストの手ごたえは、いまいちだった。今日のところは真面目に机に向かうよう、神にも諌められたのか。

 継母の顔を覗きにも行かず、私室へ向かった。


「あっ……ああんっ……」


 突然、赤子のような女の声が、たつきの耳に触れてきた。

 大きな不安、些かの好奇心は、たつきの行動を促すには十分だった。

 たつきはお義姉様の私室へ急いだ。扉に耳を当てると、今度ははっきり、愛おしいメゾの声が劣情に濡れているのが聞き取れた。

 おそるおそる、そっと、下半身に催される特有の現象からは意識を逸らして、扉を開く。


「…──!」


 むせるようなミルクでふやけた胡桃の匂いがこぼれ出てきた。

 そこは、まるで地獄絵だった。

 たつきの見たこともない女が、たつきのよく知る裸体の女神を辱しめていた。今時の軽薄な女に見られがちな栗色の髪に白い肌、くっきりとした二重の目許をけばい薄紅で囲ったウサギのごとく小柄な女だ。女神は女に安心しきった表情で、羞じらいもなく臀部を突き出して、その接吻を受けていた。


「…………」

「……宝石、綺麗。とっても綺麗……」

「あんっ、ああぁ……頂戴……貴女の指、はぁっ、私のここに挿れて頂戴……」

「っ、……」


 たつきは扉を閉ざした。

 悪い夢を見ている時にも似ている恐怖に戦慄く。どうしようもなく心許ない。


 あんなお義姉様を知らない。あんなにもみずみずしく、奔放に、持ちうる一切を投げ出して踊る女を知らない。
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